Nov.14.2019
十年。十年というとまあ趣味嗜好はモチのロンとして、足の置き場が大幅に変わっていくこともあり、追いかけている小説、漫画、音楽、美術に関して好ましいと思う傾向だって、同系統ジャンルへの好みを保持していてさえ内部での評価軸が大きく違ってくるもの。そのこと自体、十年前には考えていなかったかもしれない。とはいえ、変わらず中心核にごく近いところにある好みもある。フミヨモギさんとゆー作家さんは、そのなかの一角だったりする。丸十年前のコミケで知って以来、ゆるやかに、しかし絶えず読みつづけてる作家さん。
 この度、そのヨモギさんに装画で自作を彩っていただけました。至福! つーこって新作というよかいまの自分としての手付きでリトライした、いわゆる人外というジャンルに座する作品ができたよ、というお知らせです。
「ぼく」とお花ゾンビちゃんの話。
「spirits of the dead's good dream」
「わたし」と添い寝娘ちゃんの話。
「フミンさんとオネムさん」

 他者の眼差しは、当然のことながら自分とは異なるものです。まったくと言わずともきっと半分以上は異なる。そんな誰かが、わたしのなかにだけ、わたしの思考の一瞬のなかにだけほのかな描線の存在した幻を、観測し、筆使いでかたちをあたえてくれる。自分が見ようとしていたなにか。自分に見えていた以上のなにか。自分で意識できなかったなにか。それらが渾然一体となって、現出し、迫りくることの不可思議と幸福感ったらとんでもないよね。見れば見るほど、どちらも空間感覚がすごくて、そこにある生命も、生命ならざるものも、とてもとてもラブリー。「空間」はヨモギさんを好む大きな理由のひとつなだけに、嬉しくて震えてしまう。spirits〜のマリアンヌが見上げる、セコイア・デンドロンがそびえる夜空。フミンさん〜の娼館マリネラが建つ鉱石じみた街角の奇妙な高低差と、夜の奥へ伸びていく街の広がり。異なる眼差し(アングル)こころ(ペイント)で描かれながら、わたしがたまに夢に見る景色の、現実を真似ながら誇張されてたり表徴以外が削ぎ落とされてたりする奥行きに、どこか通じるものを見いだせる遠近感をもつから、見ていて不思議な郷愁がやってくる。恐ろしく素敵な絵ですわって心底思う。この心地に近い何かが読み手(あなた)に届いたら、あるいは読み手(あなた)がわたしの知らない何らかの心地を抱いてくれたらいいな、とも思う。
 眼差しの差異に関しては、自分に対しても言えるのかも。両方ともにベースとなった話を書いたのは何年も前……たぶん七、八年経ってるんじゃないか。フミンさん〜のベースとなったのを書いたとき、ヨモギさんのイラストにLOVE...の意匠を求めたり。なんとなしに書いたspirits〜をヨモギさんが気に入ってくださったり。斯様な流れから今回のコラボレートとなったとの次第があり、せっかくだから素敵な描線に見合う話にしたい……と思いリトライしたのだけど、当時とは眼差しに生じる色と距離感が全然違って驚いた。それも当たり前で、精神性でも手際でも当時とは大きな断絶がある。色恋やら、電脳軍事探偵やら、思いがけず通過してきたことがメルクマールとなる前の、若さよか幼さと呼ぶべきもので描かれているから、まあそりゃそうよね、なんて。そうした隔たりのむこうにある薄らぎやすい願いとか幻を、かき消えるものにしたくないな、との思いも見つけながら、いま一度自分も描線を重ねたのでした。それによってより愛らしく、よりあたたかな体温をもったものにできたんじゃないかな、なんて。
いやー、しっかしねー、もー、いざページに絵を埋めこんだらめちゃくちゃかっこよくて超びっくりしたよね(いきなりフランクになる語調)。腰抜けかけた。そして一旦アップロード作業を中座して転倒した(胡座組んでやってたので足が痺れてた)。フミンさんは鉱石調の危なっかしい大構造物もそうだし、ネオンサイン灯の飾りがさり気なくペンギンなのとか、湿気のある生活感をかもしだす色合いとか、まじまじと見てしまう。spirits〜は壊れた時計にからみつく蔦やお花と細かい意匠の拾い上げが美しくって。あとレトリックでもなんでもなく、運がいいと見れる夢のそれみたいでなぁ……。なんかもう何もかもスゲーので、マジ見てください。頼んだ。タノモーッ。と、絵をいただいたときにことばにできなかったものをことばとしておくのでありましたとさ。
買ったり。
 笑う大天使1〜2/川原泉
 北野勇作どうぶつ図鑑1〜6/北野勇作
 昔、火星のあった場所/北野勇作
 黄金列車/佐藤亜紀
 江戸の博物学者たち/杉本つとむ
 地獄に落ちた者ディルヴィシュ/ロジャー・ゼラズニイ
 変幻の地のディルヴィシュ/ロジャー・ゼラズニイ
 空電の姫君1/冬目景
 大ダーク1/林田球
 明治大正昭和 不良少女伝―莫連女と少女ギャング団/平山亜佐子
 夜の声/W・H・ホジスン
 わざと忌み家を建てて棲む/三津田信三
 忘れられた日本人/宮本常一
 パロール・ジュレと魔法の冒険/吉田篤弘
 ドロヘドロが終わり見えないのに疲れて一旦途中退場したくせに大ダーク買っちゃったんだけど、いや面白い。スプラッタノリで命のやり取りがありつつ呑気で緊張感がないのが面白すぎて何回も読んでしまう。火がついてボーボー燃えてる主人公のザハくんが慌てて走り回り、引火した他の人がどんどんボーボー焼け死んでくシーンとかめっちゃ笑ってしまった。赤塚不二夫時空。すごい勢いで命を狙われるし暴力的な人々がわんさかでてくるし、ザハくんがめざす最終目的も誰かを殺すことなのに、やってるのはステポテチーンなのんびり珍道中なのすごいな……。めちゃくちゃに強い人たちが妙に仲良く楽しそうに生活してるところもドロヘドロから変わらずって感じで嬉しい。ドロヘドロもなんだかんだでラストが気になっているし、月二冊くらいで買い直していこうかしら……。
 Oct.12.2019
飲むとひたすらウフウフ笑う以外なんにもできんくなるから禁酒してるんだけど、久々にほどほどに飲むと多幸感がすごい。そして幼児退行して甘ったれる感じになるのを再確認したので、なんかそれを自分で自分に突きつけるのヤだしまた禁酒しようと誓った。
買ったり。
 女学校と女学生/稲垣恭子
 怪奇探偵小説傑作選 青蛙堂鬼談 岡本綺堂集/岡本綺堂
 ウィッチャー1 エルフの血脈/アンドレイ・サプコフスキ
 ワールド・インシュランス1〜3/柴田勝家
 大潮の道/マイケル・スワンウィック
 聖痕/筒井康隆
 世にも奇妙な人体実験の歴史/トレヴァー・ノートン
 女学生の系譜 彩色される明治/本田和子
 どこの家にも怖いものはいる/三津田信三
 禍家/三津田信三
 異形コレクション 変身/アンソロジー
 なんとなく寄った古本屋で岡本綺堂集を買えたの嬉しかった。これと同シリーズの横溝正史集がめちゃくちゃ良くて、ずっと欲しいとは思いつつ通販で買うほどでもないとの距離感だっただけに。綺堂作品自体はほかでちょっと読んだことはあるにせよ、青蛙堂鬼談はお初。面白いし、噺家のようでいて端正な文体のはしばしからこぼれでる冷たい気配みたいなものが心地良い……この達意にちょっと倣っていきたい。異形コレクションは見つけるたびにチマチマ買ってて、それも積もり積もって気づけばシリーズのちょうど半分はそろってた。願わくば、これに収録されてきた飛鳥部作品がどこかで短編集にまとまればー……みたいな気持ちがあるんだけど、まあ無理そうよな。飛鳥部さん自身、久しく作品を発表してないし。著作もアマゾンでことごとく高額転売の憂きめにあってるし。なんとも言えず悲しい話でございます。
 柴田勝家のワールド・インシュランスは、SF設定を乗せてやるマスターキートンという発想の勝利……と言えればよかったんだけど一巻を読んだかぎりでは想像の五分の一くらいの薄さで拍子抜け。サラッとしすぎているのだよな。第一巻では「超高額保険をかけられた瞳」との謎を用意して、その瞳の保持者である少女を守るための奔走が描かれる。けど、設定や描写、考証が凝っているような作りには特になってない。ひとつの軸=謎を用意し、その周りに普通のエンタメ要素、言ってみればアクション映画に順当な物事を配置していく作りは肩の力が抜けてて語り口も軽妙なんだけど、軽妙なだけで終わってしまってるのは、小説としてちょっと味気ない。逃避行/調査/対策/解決がポンポンポンポン、とアクション映画によくある流れで進み、解決していくことで、本当にサラッと終わる。保険引受人という主人公だけあって、被保険者状況を利用した嫌がらせで敵の足を引っ張ろうとしたりはするけど、それも面白おかしい方向に踏み外す手前で留まり、読んでて抑制の一語が頭に浮かんできてしまい、もっと踏み外したステップで奇矯な踊りを見せてくれ……頼む……という気持ちがそこそこ。もちろん、つまらなくはないんだけど、本編は二三〇ページくらいあるわけだし、そのなかでもっと近未来らしい、一歩だけ先のガジェットや嘘に振り回されたかったな。一巻だから遠慮してる、ということだと良いんだけど。同じように非物的な武器でもって敵の足を引っ張る戦いでは、冲方丁がマルドゥックの短編にて銃撃戦と並行してやったやつが面白かった、と連想したり。手出しできない場所にいる主人公と被保護者を突っつくための手段。逃げこんでるホテルの権利だかを入手して「そこは訓練場である」との法的基準を満たすことにより、襲撃を仕掛けてくる、みたいな。期待をかけていいものか、ちょっとひるみつつ二巻を楽しみにはしてる……寿命投資基金でディストピア化したルーマニアなる設定は、かなり胸に来るものがあるだけに。
 あとは先だって怪談のテープ起こしを読んだ流れから、三津田さんが作者と目されている忌録も読み、ちょっと三津田ブーム来てる。三津田モキュメントブームというか。忌録は作者の手癖スゲーッ(三津田パロとすれば真似ウメーッ)という感じで、もう笑ったよね。幼児の行方不明事件をめぐる資料群がほのめかすもの。最後に仕掛けてある読者にむけたトラップ。そこら辺はもう怪談のテープ起こしから直結してくるもので、いいタイミングで読んだなと思う。三津田さんがいつもやってることに近しくも、商業ベースにおくと怒られそうで、しかしいざやると超楽しい、電書でやったろ、みたいな文脈を感じたり。怪談のテープ起こしにしても、枠物語を上手にハックしてるの楽しい。奥行き不透明な奇っ怪さに間接的に触れていく話から、幽霊譚のクロスするサイコ・スリラー、都市伝説風ホラーなどなどの形態でフラグをガンガンたててく実話風ホラーを積み木のようにカツカツと積み重ねいった果てに、媒介を有した物語としてひとつの形に引き絞り、シフト式暗号(形式そのものは本当にごく単純なシフト式暗号)による呪詛的最後っ屁をかます。そのスタイルの恰好良いこと。暗号自体はおまえに呪いをかけたからな、という露骨な指差しでかなり笑っちゃった。スタッフロールとサービスを兼ねるいい塩梅のしょーもなさ。
 なんだろう、三津田作品の楽しさは、見るなのタブー的というか。解決や理解を試みることで禁忌を犯し、ドツボにはめられる読み味に心地良さがある。分断された文脈に意味をあたえ、つなぎあわせる。人間を人間たらしめてる想像という機能。怖気というこれから起こることへの予期。それらを読者の心中で運用させるし、状況によっては、読者が想像・想定しうる「他者への差別的な認識」まで薄っすらこみにして励起させるのが面白厭ン(これは三津田作品の可能性がある忌録にしても)。この感覚はたぶんブラボや、ブラボのバックに感覚援用として直接的語彙を使わずに控えているクトゥルフ神話にも通じているものだよな。作りにせよ、楽しみかたにせよ。認識することで理解しなくていいこと、理解しても糸の口の見えないことを理解し、それによる忌避感や怖気で正気を乱し、生じた揺籃を楽しむ、というような……。その揺籃にしても、ほとんど抜けるところは抜いたあとのジェンガみたいな、ギリギリ崩落を免れているところで止めてく手つきがヤらしくて良い。かつ、たまにそれを思い切り蹴っ飛ばしたりするし。実話風の作りとしては小野不由美の残穢なんかがありつつ、書き手としての性質が映像的であり、闇を手にこびりつかせてあり、這い寄る怪奇現象の鬱陶しさもネトッとしたものを秘めてるのが、なんとも堪らず。ドキドキしちゃう。昔読んだ刀城言耶シリーズがそこまで合わなくてつまみ読み程度に留まってたけど、これからガンガン読んでいきたい。現役作家、それもコンスタントに本を出すハマれるのはいいこと故。そしていまはこの流れからどこの家にも怖いものはいるを読んでいる。戸建ての家に潜む何かをめぐる最初のエピソードからして、嫌なほのめかしの塩梅がよく、民俗学的なルールづけがうかがえて楽しい……。
三津田さんのツイッター垢を見たらからかい上手の高木さんにドハマりしててめちゃくちゃ笑ったな。意外すぎる……。
この日記を書き終えてどこの家にも怖いものはいる読み読みに戻ったはいいけど、今現在は台風一九号のまっただなかにあって雨風の音がすごいから、なんかもう本から伝う怖気も一段とって感じ。感覚はたやすくひずむ。そこから恐れにディストーションがかかる。京極堂シリーズにおける呪詛の認識と心理的効果というものがすごい好き(中二ハート)なんだけど、それに通じる体感が色濃い。人間の心とはげに誤認識しやすきものよ……。
 鬱ウェーブ来てるときの体感とか、いろいろ書けようことも多いが、まあ特に意味もなく長くなるので省略。
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