と、いうことで、上記の作品を楽しめた人は、様々な作品のベーシックとなっている、より濃厚な以下の翻訳モノを読んでみてはイカガでしょう。
重力が衰えるとき
著者:ジョージ・アレック・エフィンジャー
訳:浅倉久志
出版社:早川書房
出版年:1989年9月
電子書籍:無
読解難度:
★★☆☆☆(ちょいがっしりした翻訳調)
入手難度:
★☆☆☆☆(新装版有)
欧米の凋落やら何やらで変転を迎えた時代のイスラーム世界を舞台とするハードボイルド風電脳探偵小説。大犯罪都市――ブーダイーンの黒社会で探偵役を引き受けている自称一匹狼が、依頼主が眼前で殺されるという事態を深堀りすべく黒社会を右往左往したり、自称ジェームズ・ボンドと戦わされたりする、というお話。
兎角、ことあるごとに披露されるイスラーム様式が独特な一作です。作品世界の各所を彩るのは家父長制度に基づく規範や、「やりとり」を重視することで定型化されたことばの数々。お話の筋こそチャンドラー風の典型的造作ながら、表皮を張り替えることでその
膚ざわりはすっかり異化されています。探偵稼業と犯罪都市の組み合わせによるアーバンな気配と裏腹に、劇中では乾いた異国の情緒がどこまでもひしめく。それはもちろん、悪徳に満ちあふれたブーダイーンの風情を描くうえでも活かされている。
そこに読みやすさを加味するのが、一人称によるどこかボンクラくさい語りです。主人公であるマリードは、腕っ節よりか、ノラクラした構えで歩くのが似合う手合。その辺が浅倉御大の訳と相まって、ストレートかつハードすぎない、ちょっととぼけた風情を生んでいます。
また、サイバー設定もそれほど込み入っておりません。メインとなるのは「モディー」という技術。端末化した脳にセットすると別人格や物語の登場人物をエミュレートできるこれを使い、きらびやかなネオンの奥を捜査していく。テイストとしては、第一部で紹介した『イノセンス After The Long Goodbye』に近いです。お話がスロースターター気味なのはそこそこ大きな弱点ですが、他の作品にはない空気感を投げかける佳作と言っていいでしょう。
ハードワイヤード〈上〉
著者:ウォルター・ジョン・ウィリアムズ
訳:酒井昭伸
出版社:早川書房
出版年:1989年4月
電子書籍:無
読解難度:
★☆☆☆☆(ほぼラノベのライトな翻訳調)
入手難度:
★★★☆☆(中古メイン)
便乗的ジャンル搾取でもってサイバーパンクから「それっぽさ」を抽出したバトルアクション小説。時は二一世紀、荒廃したアメリカを舞台として、伝説的な
運び屋であるカウボーイ(ナイーヴ)とサイボーグ姉ちゃん(ヘッポコ)が搾取者である軌道上コンツェルンに戦いを挑む、というお話。
最初にあった「文学的な運動」の相に興味はなく、ファッション性を楽しみたい。サブカルチャーにはそうした流れがつきもので、本作もそうした流れに乗った一作。SFらしいSFというよか、SFを衣とした大暴れを描く娯楽作です。そもそもはゼラズニイの『地獄のハイウェイ』が元ネタであると言えば、わかる人にはどことなくテイストが感じとれるのではないでしょうか。悪く言うなら、あくまでも『地獄のハイウェイ』的なお話をやるのが目的だから、サイバーパンクは香辛料でしかありません。ですが、それは翻って言えばエンタメノリをマジに重視しているということでもあります。
つまり、滅法読みやすい。
翻訳モノサイバーパンクにおいては唯一無二と言えようレベルで現代文学的な部分を削ぎ落とし、兎に角、
崩壊後の世界風世界でのアクションに振っている。しかもホバー・タンクでの大暴れからエースコンバット的空戦まで、バトル盛りだくさんの筋肉モリモリマッチョマンな内容とくれば、もう。もうもうわかりやすい。荒れ果てた世界をアウトローが歩むためでしょうか、八〇年代
オリジナルビデオアニメを彷彿とさせる、退廃的スチャラカ感までが漂っています。虚淵玄が影響を公言するのも納得。
ドローンランド
著者:トム・ヒレンブラント
訳:赤坂桃子
出版社:河出書房新社
出版年:2016年1月
電子書籍:無
読解難度:
★☆☆☆☆(軽めの翻訳調)
入手難度:
★☆☆☆☆(中古価格低め)
無数のドローンによる監視体制でディストピアとなったEUを舞台とするミステリ風ポスト・サイバーパンク小説。
欧州刑事警察機構所属のヴェスターホイゼン主任警部が、欧州議会議員殺人事件を捜査するうちに陰謀の渦へと飲みこまれていく……というお話。
あらすじだけだと硬派っぽい雰囲気ですが、まずもって主人公は、ハードボイルドになりたいけどなりきれない
リコリス菓子(日本だとハリボーのタイヤグミが著名)とハンフリー・ボガードが好きなおっさん。かつて「ソーラー戦争」に従軍した経験が少し影を落とす人物ですが、一人称の語り口にはなかなか愛嬌があります。しかも赤坂桃子氏による平易な訳のおかげで読みやすいとくれば、オススメ作品としても挙げやすいですね。基本となる設定が現実と地続きの問題を主軸としているため飲みこみやすいのもよございます。超監視社会化をささえる大小無数のドローンや
電脳眼鏡による情報収集、公的機関によるデータ・マイニング――パッと見でウヘェ……と思わせる環境は、プライバシーを切り売りする現代の一歩向う側にあるのですから。
とはいえ、本筋はきちっと面白いSFミステリ。いびつな社会構造を通して考えさせる社会派の面はあっても、重い空気には終始しません。監視社会の穴に生じた事件を追求する捜査パートは、お仕事モノとしての抑制が利きつつも牽引力が強いのです。厖大なデータから犯行現場を電子上で再構成する「ミラーリング」などを用い、あるときは捜査スパコン<テリー>にブチキレ、またあるときは情報を組みあわせ、たまに分析官のヒロインといちゃつく――各所に賑々しさが散りばめられ、読み心地が地味になりすぎないのも善きですね。一方で、急激にテンションをあげてブチかますアクションもまた恰好良かったりして。<テリー>との連携で敵戦力を即座に分析し、おぞましい殺傷性火器にテキパキと対応を講じるシーンはサイバー銃撃戦が好きな人ならキャッキャしてしまうはず。
ミステリ畑とSF畑のミックスはたまに大変な良作を生みますが、これはとりわけ良い例ではないでしょうか。サイバーパンク小説だとの共通認識がないのかオススメに挙がりづらい本ですが、翻訳物のなかでは特にマジ超オススメ。最高。下手に『ニューロマンサー』から読まず、まずこれに触れたほうがいい、と言っても全然過言となりません。刊行から数年を経てるおかげで古本はバンバン出回っており、入手しやすいのも良し。いや個人的には文庫化してほしいんですけどね……(買い直したいしヒレンブラントにお金落としたい……)。
ネクサス(上)
著者:ラメズ・ナム
訳:中原尚哉
出版社:早川書房
出版年:2017年9月
電子書籍:有
読解難度:
★☆☆☆☆(軽めの翻訳)
入手難度:
★★☆☆☆(上下巻て高価いよね)
神経科学によって
進化した人類が実現に近づきながら、これを危険視したアメリカが規制を訴える近未来を舞台としたモダン・サイバーパンク小説。若き科学者ケイドが、神経リンクで感覚や記憶、気持ちを他人と共有できる違法ナノマシンを製造したかどで
国土安全保障省・
新型リスク対策局に逮捕され、仲間を救うことと引き換えにスパイとして中国の科学者を探る破目に、というお話。
ナノマシンにより脳を端末化し、身体の各機能を御する――神経学的ハイテクが浸透しつつある世界は、グレッグ・イーガンらの九〇年代作家を経由して、日本では伊藤計劃に通ずる当世風の趣ですね。かといって生真面目一辺倒にせずアクション満載なのがまた当世風と言えましょう。ナイーヴなあんちゃんがスパイ活動を強制され、あがき、成長し、出会った人々ともに生き残ろうとする。そこにタイ王国の熱気や仏教的世界観というエキゾチックな衣を着付けて描かれる戦いは、かなり映像的で読みやすい。しかも意外に多いのが暴力要素。お話が大きく転がるときには格闘と銃撃が吹き荒れ、ハリウッド製アクション映画の作法がにおいたつのです。具体的に言えば『ボーン・アイデンティティー』からはじまる一連のシリーズぽさが色濃いですね。それを色とりどりのガジェットが彩り、感情制御アプリの「明鏡止水パッケージ」や自動格闘術アプリ「ブルース・リー」にはじまり、ヒロインである捜査官を内側から強化するハイテク技術、フル装備の特殊部隊や暗殺ドローンなど、各所でサイバーパンク冒険小説たる味わいを高めてくれます。
もちろん、善い味わいはエンタメ要素だけではありません。倫理面で諸刃の剣となるテクノロジーへの問いかけと、それをなお信じる理想。サイバーパンクらしい個人vs体制、そしてイデオロギーの対立。アメリカを規制に導いたトランスヒューマン技術悪用の悲劇。テクノロジーと仏教とが交錯する宗教体験。米中間のスパイ戦争を幹として、鮮やかなサイエンス・フィクションの葉が触れやすい形で茂っている。
惜しむらくは、三部作ながら第一部である本作の刊行以降は音沙汰がないことでしょうか。フィリップ・K・ディック賞を受賞した「Apex」を読める日は来るのかな……。来ないか……。
ニューロマンサー
著者:ウィリアム・ギブスン
訳:黒丸尚
出版社:早川書房
出版年:1986年7月
電子書籍:有
読解難度:
★★★★★(翻訳文体の癖非常に強し)
入手難度:
★☆☆☆☆(新装版・電書有)
でおったな、原初にして最大の極悪ハードコア本!
ちょっとした粗相から電脳世界を駈けるカウボーイとしての
没入能力を奪われ、人生を棒に振りまくりながら日本に流れ着いた若者ケイスが、みずからの人生を取り戻すことと引き換えに謎多き
仕事を引き受け、千葉からニューヨーク、イスタンブール、そして宇宙へと練り歩くお話。
言うまでもなく、サイバーパンク最大の
古典です。意識をネット上に投じる感覚的ハッキングや電脳犯罪、ファッショナブルなアウトローの姿は、驚くべきことに、この時点ですべて描かれています。コンピュータになじみのない男がタイプライターで記し、一九八四年に刊行された。その事実とあわせて冗談のように思えちゃいますね。こうして生まれたパンキッシュな視座は、一足早く公開された『ブレードランナー』の退廃性とあわせ、その後、数十年に渡って愛されるスタンダードのかたちを決定づけました。
そしてまた、その文芸としての質は比類がありません。世界の像に幻視を重ねあわせる詩性に富んだ筆致は、ウィリアム・バロウズやJ.G.バラードといった
幻視者の系譜。語りに抱くクールネスのローカライズを担った
黒丸尚氏による、ルビの多用や疑問符の代用として三点リーダを使う独自の翻訳文体も忘れてはいけませんね。恰好良さの極みにあるそれは本邦において、数々のフォロワーを生んでいます。それらの色褪せない独自性が、「読みにくさ」という瑕瑾にも化けることこそ、本作のすこぶる恐ろしいところでしょう。くっきりと色彩を喚起し、かと思えば、ときにどう描写しているのかさえ見失う言いまわし。抽象性が強く、オブジェのありようを語りあげるかのような修辞。それらが入り乱れる読み味は万華鏡を覗くかのようなものとなり、
与することはたやすくない。それこそ旧装幀版における
奥村靫正氏(YMOのアートワークで有名ですね)による装画みたいな顔になっちゃう。筆者も中高生の頃に読んで太刀打ちできず、楽しめたのはもうちょっと齢を重ねてからのことでした。ただ、得も言われぬ味わいに一度ハマると、もう病みつきであることは間違いありません。
お話の筋も、実はダウナーなピカレスク青春小説として楽しいのです。若く繊細なアウトローたちが、サイバー犯罪に手を染め、命や
黒いプライドを賭けて戦っていく。際どい道を歩んでいく胸に秘めた刹那的でセンチメンタルな魂は、いまなおきらめいています。ギブスン一流の
膚ざわりをかぶせて描かれていく強奪作戦や潜入行も、電脳活劇としての冷え冷えとしたワクワクも最高。
訳出から三五年。多くのフォロワーを生んでも、まだ摩滅してはいない。どれだけ手垢がついたところで、本当の珠は、拭いさえすればいまだ清冽な艶を宿している――それを教えてくれる傑作なのです。と、良き本であるといくら語ったところで、いざ文面と睨みあうと、油断したら筋を追うのも困難に感じてしまう本であることは、やはり否定できませんね。
毒を食らわば皿まで。難しいかもだけど、どうせ読むなら古典もきちっと楽しみたいぜ、とお思いの方に幸いなのは、以下の本を読めば読解難度がかなり下がるとの事実です。
【増補改訂版】ウィリアム・ギブスン (現代作家ガイド 3)
編著:巽孝之・新島進
出版社:彩流社
出版年:2015年6月
電子書籍:無
こちらの本には劇中設定解説、全作品のあらすじが詳細に記されているのです。アシストとして併読すれば、どうにか通読には困らないでしょう。他にも書評やギブスンによるエッセイ、レアい短編が収められ、作家としての全貌を理解する上でもかなり役に立ってくれるはずです。サイバーパンクの基本を理解していくうえでも、これ以上ないお役立ち要素のかたまりと言っていいかもしれませんね。
あとはミもフタもな話ですが、近来はウィキペディアの当該作品項目が非常に充実しています。あらすじとかもきれいに要約されているので、まあ、懐の寂しい人にも優しいですね。攻略本として参照してみてはいかがでしょうか。
クローム襲撃
著者:ウィリアム・ギブスン
訳:黒丸尚、浅倉久志、酒井昭伸、小川隆
出版社:早川書房
出版年:1987年5月
電子書籍:有
読解難度:
★★★☆☆(部分的に翻訳文体の癖強し)
入手難度:
★☆☆☆☆(新装版・電書有)
電脳青春ピカレスクとしてシンプル楽しい『記憶屋ジョニイ』や『クローム襲撃』など、『ニューロマンサー』の前日譚を収めた傑作短篇集。こと、ニューロマのヒロインであるモリイが登場する『記憶屋ジョニイ』は、人物のラブリーさあり、バトル要素あり、都市探検要素あり、忍殺的にアレな日本要素もあり、と短いなかに楽しさがギュッとつまっています。加えて、サイバーパンクのジャンル枠に縛られることのない『辺境』とかもやたらカッコよかったり。短編作家としてはとても寡作なギブスンですが、ここですべてをやりつくしてしまったと考えると納得がいきます。それくらい、小品の連なりとしての心地よさがすごいのですよ。
ちなみに字詰めや級数の関係上、紙面のキマり具合は旧版のほうが上だったりします。一方、新装版はトールサイズとなったおかげで読みやすさが段違い。
スノウ・クラッシュ〈上〉
著者:ニール・スティーヴンスン
訳:日暮雅通
出版社:早川書房
出版年:2001年4月
電子書籍:有
読解難度:
★★☆☆☆(ちょい硬めの翻訳調)
入手難度:
★☆☆☆☆(新版&電書刊行!)
国土をフランチャイズ国家によって分割された近未来のアメリカを舞台に、仮想空間「メタヴァース」の大物、黒人剣士ハッカー(?!)のヒロ・プロタゴニストが新種のデジタルドラッグを巡って大活躍したりしなかったりするポップ冒険小説。
基本は九〇年代チックなアウトロー青春小説のスタイルに則っるものの、先見性とポップ性にあふれる作風は、いま読んでも眼をみはらざるを得ません。九二年の時点でメタヴァース(セカンドライフなどに強いインスピレーションをあたえたと言われています)を描きだすイマジネーション。新種のドラッグ「スノウ・クラッシュ」がらみの大事件。それらがお話を導き、さまざまな人々の視点があっちへこっちへと飛んだり跳ねたりする楽しさ。そして、同時代の作家で言えばチャック・パラニューク(代表作:ファイトクラブ)やアーヴィン・ウェルシュ(代表作:トレイン・スポッティング)と近いところにあるポップ・センス。どれもがうまいことからみあっています。
ハードSFとしての面を兼ね備えており、半端ないクール・ボーイ、と呼んでも過言とはならないでしょう。ちょっと勢いつけすぎてカッ飛ばすあまり、調子っ外れになる部分もありますが、気が合えば大変楽しい上下巻です。また、文庫版は鶴巻和哉(フリクリ/トップをねらえ2/新劇エヴァ監督)による表紙絵もめちゃくちゃラブリー。ビビッドなイエローとピンクの、モロにモロな九〇年代末感にはときめいちゃう。
唯一、本気で爪の先から頭の天辺まで真底難渋しちゃう点は、中古価格あがりっぷりでしょう。安くなってるのを見つけたらマストお買い上げください。二二年、ついに新装版と電子書籍版が刊行されました(表紙が鶴巻絵じゃないのだけ残念)。買って後悔は絶対にしない、と筆者は言い切ります。買え。
あとは
ダイヤモンド・エイジも電子書籍化されました。こっちもポスト・サイバーパンクの最高峰のひとつなのでマストです。
グローバルヘッド
著者:ブルース・スターリング
訳:嶋田洋一
出版社:ジャストシステム
出版年:1997年7月
電子書籍:無
読解難度:
★★☆☆☆(軽めの翻訳調)
入手難度:
★★★★☆(中古メイン)
八〇年代サイバーパンク運動の大ボスによる、サイバーパンク以降のイマジネーションを拡張する短篇集。長編『スキズマトリックス(八五年)』の時期から、エッセイ『80年代サイバーパンク終結宣言(九一年)』前後までの各種短編を収録。
傑作長編の『スキズマトリックス』をはじめとして、ほとんどの作品がとっつきにくいスターリングですが、本作は比較的お手軽な内容です。というのも、のびのびした雰囲気のアイデアSFがたくさん入っているが故。変な設定がマジで多い。サイバーパンク方面の視点で注目すべきは、『われらが神経チェルノブイリ』と『あわれみ深くデジタルなる』でしょう。前者は、遺伝子ハッキングによる知能向上ウィルスが大規模災害を起こし、大変な変化に見舞われてしまった世界を架空書評から描きだす短編。後者は、イスラーム社会で生みだされたAIが演説でアッラーへの信仰を滔々と語りあげる短編。と、簡単なあらすじだけだと一瞬マジメっぽく身構えかねませんが、二作ともテッキーな楽しさですっ飛ばし、良い具合に気の抜ける膝カックンをかましてくれる良作です。
ギブスンと並んでサイバーパンク運動の中心たる作家ながら、ともすればサイバーパンクにつきまといかねない偏見の皮をむき、境界を飛び越えていく作風は素敵です。他の短編にしても、奇妙な味から伝奇的かつジョークめいた小ネタ、ちょっとジャーナリスティックな視線の話、果ては現代文学っぽいのまで幅広くフォローしており、楽しくノンビリ読めること間違いなし。