予告編 蜉蝣座 -かげらうざ- |
---|
0:00〜0:05 (画面外から神経質な男の声) 「未来の胚よ、安らかなれ」 鱗状の手のアップ――三センチ大のタイル状となった色とりどりの膚で埋まっている。白衣の男が敬虔な手つきで赤児を抱く。幼い頬をこする鼻先。 丸眼鏡越しに目蓋をうっとり閉じる。 0:05〜0:07 フラッシュバック:暗く青白い廊下の奥、執刀中のランプが灯される。 強烈な無影燈で丸眼鏡が虫の眼のようにぎらつく。器械がうごめき、合金の仕掛け腕が無痛手術刀の切っ先をそっと落とす。健康的な泣き声が痛々しく響く。皮を引っかけた鉤がワイヤーで牽引される。肉の器としての健全さを愛撫するように何度も刃が落ち、じき泣き声が途切れる。 (沈黙) 0:08〜0:10 【赤バックに大写しの白抜き極太明朝体】 大治弐拾四年、 帝都。 0:11〜0:23 (虚ろに響く赤児の泣き声) 曇天から高層建築への俯瞰へのティルトダウン。 どんよりとくぐもった街のグリッドに不格好な蒸気式汽灌自動車や汽灌装甲列車がのぞく。 煉瓦を連ねた高層建築の麓――中央京と駅名の垣間見える駅舎の前、ロータリー。注いだばかりの味噌汁じみた蒸気が包むそこかしこに、モボとモガの雑踏がゆきかうが、その輪郭はどこかいびつ。蒸気の紗幕にうごめき、徐々にあらわになっていく。胴は塔や聖堂や砂時計。脚は柱。洋装仕立てと着物が混在した奇妙な細工の群れは、器用に足音高い。 霧に浮く壁でポスターの角ばった字体――燃えたつ審美の躰/湧きたつ大和の美。 霧に浮く壁でポスターの角ばった字体――防諜週間/通報は能動的隣人愛。 霧に浮く壁でポスターの角ばった字体――謳エ輝ク共栄賛歌。 その前を軍服姿の大男が通りすぎる。 異形のなかにあって一層に均整な体つき。プロパガンダばかり叫ぶ公共飛行船を、ぼうっと見あげる。軍帽もマントも、ロダンの彫刻と似て刻まれた懊悩を隠せない。軍帽を目深に下げる。よく磨かれた爪が映える手。 マントのうちに隠すもう片方の手――六芒星の記された手袋をつけ、赤児を抱く。 0:24〜0:30 【テロップ:皇警の鬼喰らいと 呼ばれた男は】 暗中、雨にほどける血溜まり。稲妻の照らす軍服の死屍累々――真っ只中で血まみれの後姿がたちすくむ。 【テロップ:國を捨て しかして忠義に生きた】 軍服の男:「おれのような怪物が手を添えることを、許してくれるか」 0:31〜0:33 【大写しの極太明朝体:優良産児法】 【ポイントを下げた極太明朝体:健全なる新生児の出産、育成によって国家の未来を建設すべく優性未来学に基づいて制定された法案。これに反するものは五拾万円以下の罰金、または十年以下の懲役に処される】 0:34〜0:40 白亜を重ねた医院の待合室。 (幾重にも重なりあう声) 老いた女の声:「産婆であることを悔いる世さ」 若い女の声:「いいじゃない、どうせ間引かれるような未来しかないんだから」 老いた女の声:「どこも同じさね。生まれてくるものを礎としか見やしない」 (高まっていく赤児の泣き声) 壁に掲示されたポスター――瀟洒な字体が不整児童中絶を奨励する。椅子にかける孕み腹の女たち。絢爛な衣服を着て雑誌をめくるその顔に、さほどの愁いもない。 窓口で提供される札束。ヴァギナの色をして猥らなまでに艶やかな五拾円札。 (聾するほどの泣き声ですべてフェードアウト) 若い女の声:「ねぇ、次はどんな子にする?」 0:41〜0:45 ガラス張りの展示。 赤児のシルエット。 ボッシュやルドンに通じる、奇怪なシルエットの肉と機械の混合物がさらされる。奇妙な螺旋を描いた幼体オブジェ。台座の上に胎児の姿勢で固定された肉幻燈機。 老いた男の声:「魂。宿っているとも。芸術家だって品物に魂をこめるだろ」 0:46〜0:54 若い女が、虚空にたたずむゴシック調刺青にまみれた赤児に触れ、とたん、空間を切り裂き展張する屋敷の一室。きらめく調度。 紳士:「虚体建築。赤児の柔軟な世界認識に構築物に刻みつけ、現出させる超心理学的生体建築。窮極的な利用法です」 空間を折りたたむ屋敷。女が振り向き微笑む。 0:55〜1:02 若い女の声:「この國を形作るのは、いまや出来損ないの主義でしかありません」 帝都と曇天をバックにしてたたずむ砂時計型巨大建築物を見上げるカット。 映りこむ看板――内務省児衛局沙計院の文字。 1:03〜1:08 手術予定者リスト。 女の名前に次々と赤が曳かれていく。 神経質な男の声:「生まれる前に否定し、生まれてすぐはぎとってしまえば、ああ、憂慮など、この先起ころうはずもない」 1:09〜1:17 未来予測器――錠前のように頑丈な無数の金属ダイヤルをせわしなく回転させる。 クロスカッティング:縦十段横百列からなる千桁の数字は転じる。 クロスカッティング:真空管まみれの巨大中央計測機構が唸りをあげる。 クロスカッティング:フィルムのコマ――絶え間なく提示する暴力の歴史。 クロスカッティング:戦争、殺人、殺されゆく赤児、軍服の男が人を殺す映像も。 クロスカッティング:彫像や幻想絵画のような怪物たちが人間を捕食し、壊していく。 クロスカッティング:描きだされるは無数の可能性――どんどん増えてピクセルとなる。 1:18〜1:23 軍服の男の声:「災いにまみれた未来」 ピクセルが軍服の後姿へ転じる。軍服の男が青白い廊下を行き、執刀中のランプを灯す観音開きを力任せに押しあける。 軍服の男の声:「ロクでもない決めつけだ」 1:24〜1:26 西日の差しこむ円卓の会議室。 老人(A):「帝の子、なれど鬼子よ」 1:27〜1:35 軍服の男が手術室を破ってあらわれ、軍帽の下で眼がぎらつく。赤ん坊を抱えて歩く。駈けつける警備部隊――防毒面をつけ、背に特高の字と菊の紋章をかざし、盾を構えて進み来る。一斉に振られた手で鉾鎚型警棒が伸びる。 軍服の男が赤児を抱いたのと逆の掌を握りこむ。力んだとたん、五指の付け根から剃刀状の鋭さを具えた鉄片群があふれだす。 軍服の男:「生憎と、徒党相手は手慣れていてな」 1:36〜1:46 巨大な階段室の回廊――特高の防毒面、血しぶき、身体が空を舞うスローモーション。 吹き抜けを落ちていく死体。直後、駆ける男のアップ。駆けよる特高をあいた腕で撲る。ドンッ、と劇しい音。粉砕される防護服――スローモーションで鮮血が飛散する。返す裏拳が組みつくもう一人を振り払い、叩きつけた壁ごと粉砕する。 倒れてなお足に組みつくものたちを蹴飛ばして床をすべらせ、踏みつけてめりこませる。さらに男は二人を撲り倒し、吹き抜けより飛びおりる。 1:47〜1:54 墜落が浮遊へ――また墜落。 静寂。水色のタイルを敷きつめた手術室。 手術台を横から見るシルエット――下される器械の処置。 (赤児の泣き叫ぶ声) フラッシュバック:男の顔。 見あげる無影燈。執刀医と器械が見下ろす。横合いからのシルエット――皮をはがされ、歯列を抜かれ、顔筋をそがれ、眼をえぐられ、解体されつくされる。 フラッシュバック:赤児と重なりう男は両の目蓋をひらき、眼醒める。 1:55〜2:02 飛び起きたそこは博物館のような一室。 赤ん坊であったモノたちがガラスの奥に陳列された純白と深紅の織りなす部屋。 下からの光源――羽を広げて浮かぶ天使の様相。望まれなかった子どもたちを連ねた部屋で、光をうけて蜉蝣のようにはかなげ。樹脂の内側で永劫の夢を見る。 軍服の男:「策定されたものを未来なんぞと呼びたくはない」 煙管をくわえた男:「そいつぁ筋書き――出来合いの、横から蹴りを入れちまえば壊れるような茶番さ」 2:03〜2:20 若い女の腕のなか、赤児が抱かれて眠る。 ゆっくりと浮かび上がる陰影――紗幕を前にした軍服の男と四人の老人がつく円卓は、未来予測器の残骸を囲う。 軍服の男:「政治屋どもは何を?」 老人(A):「なあきみ、何を想像する必要があるかい? 魂なき魂のバロック、その果てなき王宮の箱に、完全にして完璧な宮城。いや、あるいは、つなぎあわせることによって国土をこさえようというのだよ」 フラッシュバック:人々の頭上を、巨人の影絵たちがまたいで闊歩する。 老人(B):「あの子はその断片。いや、核心になるはずだった」 フラッシュバック:上半身だけの彫像が這いずりまわり、汽灌車を撲り潰す。 老人(C):「あの子が『この世』を築くと。だが、きみ、想像の反転をもって壊せることをもまた、未来学者たちは知ってしまった」 フラッシュバック:沙時計の断頭台が人々を捕え、その刃が落とされていく。 老人(D):「あの子の眼差しが、魂が、天頂を隠す厖大な書き割りを壊すことを」 フラッシュバック:幻想に食いつぶされた帝都がピクセルの破片と化していく。 2:21〜2:25 必死に胸へすがり、乳を吸う赤児。 若い女:「ああ、皇帝ならざる皇帝よ」 2:26〜2:30 火災を吹きあげる帝都。曇天には両掌をあわせたような鳥もどき、人面気球や曖昧な形の魚たちが泳ぎ、飛行船が火の手に包まれて落ちようとしている。 曇天が、ゆっくりと崩れ落ちていく。 ひびわれたそこにあるのは―― 2:31〜2:33 タイトル表示:『蜉蝣座』 スタッフクレジット |
for TEXT ARCHIVE |