わりと初読者にも優しい系
おすすめサイバーパンク小説リスト
「サイバーパンクとか、
どうでしょう。」
目次
前書き。
第一部:小難しくないヤツを読もう。
  ▼ペロー・ザ・キャット全仕事&ボーイソプラノ
  ▼鬼哭街
  ▼オーギュメント・アルカディア
  ▼殺戮のマトリクスエッジ
  ▼ヴァーティゴ
  ▼イノセンス After The Long Goodbye
  ▼オイレンシュピーゲル&スプライトシュピーゲル
  ▼ニンジャスレイヤー
  ▼スズメバチの黄色
  ▼楽園追放 rewired サイバーパンクSF傑作選
  ▼攻殻機動隊&キヌ六
第二部:翻訳モノも良いは良い。
  ▼重力が衰えるとき
  ▼ハードワイヤード
  ▼ドローンランド
  ▼ネクサス
  ▼ニューロマンサー
  ▼クローム襲撃
  ▼スノウ・クラッシュ
  ▼グローバルヘッド
第三部:あるいはトばし気味のセレクト。
  ▼軍事・諜報趣味
  ▼探偵モノ趣味
  ▼コア・オブ・コア
  ▼オルタナティヴ
付記。

前書き。
intro [ The era of "Cyberpunk revival" ]
 Twitter上で『ニンジャスレイヤー』が人気急上昇してから幾年。結果として書籍化&アニメ化し、新たな流れに乗ったCGアニメ『楽園追放』が人気を博し、ついでとばかりに長らく品切れつづきの『クローム襲撃』が復刊にいたった十年代も過ぎ去っていきました。八〇年代以来の再ブレイクにおいては、さまざまなサイバーパンクが生まれました。
 Netflixはドラマ版『オルタード・カーボン』を配信。『攻殻機動隊』は実写版が公開され、『S.A.C.』は最新作がCGアニメ化。インディーから大手までのゲーム会社が『Ruiner』『VA-11 Hall-A』『サイバーパンク2077』といった作品をリリース。シモン・ストーレンバーグによるイラスト集『エレクトリック・ステイト』が界隈を賑わせたのも記憶に新しいですね。そして、二〇二一年にいたっては『マトリックス レザレクションズ』の公開が決定。
 再ブレイクから再定着にいたった昨今の情勢に、ジャンル愛好者としては一喜一憂が絶えません(いいこと)。一方、その礎となった小説作品に関しては、「何から読めばよかろうか」と悩む言と、それに対する良い感じな回答の不在がいまだに見受けられます。
 もうすぐ四〇年選手のジャンルだし。
 だいたいは中古じゃないと買えないし。
 モノによっちゃプレミア付いて高価(たか)いし。
 ちょっと引き気味の「ニューロマンサー難しくね?」とのことばももはやおなじみ。入り口と見せかけた代表作が莫迦(バカ)ほど強い癖の持ち主で、気をくじこうとしてくることは否めません。他のを読もうかとインターネッツに尋ねども、ニューロマ以外で挙がるオススメ本とかそういうのが、なんか、筆者としてはあんまアテにならなく見える。何を読むにせよ、選ぶための適度な道標がないのは結構キツいものです。そういう現状ってイカガなモノかしら……との嘆きを起点として、ちょっと興味がある程度の人にも優しくありてぇなとの気持ちから、このブックガイド的なやつは生まれました。
 セレクトは初読者でもつっかえないの中心で。
 なるだけワクワクできるエンタメ系を。
 ワクワクって大事でしょう?
 それに恰好良さも大事。
 なかには個人的に、鬱陶しい言い方をするなら原理主義的(ファンダメンタル)(厄介!)にそりゃァどうなのサって本もあるにはあるんですが、できるだけ中立的に……。絶版本も混じってますが、Amazonのマケプレやブックオフを使うとわりと買えるはず。最近ではメルカリもあるし。便利。
 あ、でも値段爆あがりとかに関してはご容赦くださいませ。そういうのは古本屋を(ディグ)れ。探求(ディグ)はジャンル者の基本だ。わかるな? 求むるものは得て、捜すものは見いだし、門をたたくものは開かれる――マタイによる福音書にも書いてある(いきなりテンションおかしない?)。
 そんなこんなで前置きが長くなったけど、まあ、アレです。
 気になったのがあれば読んでみてねよろしくね!
第一部:小難しくないヤツを読もう。
chap1 [ ez does it ]
ペロー・ザ・キャット全仕事〈新装版〉 徳間SFコレクション
 著者:吉川良太郎
 出版社:徳間書店
 出版年:2001年5月
 電子書籍:有

ボーイソプラノ〈新装版〉 徳間SFコレクション
 著者:吉川良太郎
 出版社:徳間書店
 出版年:2001年9月
 電子書籍:有

 オススメ度:★★★★★
 第三次非核大戦を経た近未来のフランスにおいて、暗黒街の巨魁パパ・フラノが取り仕切る黒い治外法権域<パレ・フラノ>を舞台とした、ポップな語りと軽妙なノワール/ハードボイルドが交錯するサイバーパンク長編小説。
 第一作『ペロー・ザ・キャット全仕事』は、社畜の(あん)ちゃんがエジプト旧政府秘密警察の秘密兵器、サイバネ猫ちゃん憑依マシン(アヌビス)を手に入れたことから、思いがけぬ冒険と悪事と陰謀の渦中に飛びこむことになる、というお話。
 自由を求めて遊んでたら暗黒街の首輪に囚われた「ぼく」の物語を、ピカレスクやスパイモノといった典型的サイバーパンク様式を織り交ぜつつ、大変スピーディに魅せてくれる作品です。一人称の回想からなる語り口は小洒落たユーモア感覚にあふれ、気軽な読み味をくれるのが大きな魅力のひとつ。言うなればサイバー版『吾輩は猫である』。というか「吾輩は猫になりたいのである」という趣。さらに突っこんで言うならば、そこにウィリアム・ギブスンの短編『記憶屋ジョニイ』を本歌取する感覚までもを持ちあわせ、スタイルのキメっぷりたるやデビュー作とは思えません。ファミリーが抱える「軍曹」にスパイ技術を叩きこまれ、エジプト秘密警察エージェント戦うなど、全編を通して冒険活劇らしいしなやかな勢いもたっぷり。国際謀略や背景に透ける「大戦後」としての世界のありようもクール。最後まで一気読みできる楽しい作りなので、手始めに読むにはぴったりな傑作と言えましょう。
 第二作『ボーイ・ソプラノ』は、第一作で脇役だった眼帯姿の探偵ヴィッキーを主人公に据えたハードボイルド風アクション。聖歌歌手の少年から神父を捜してほしいと依頼されたことから、パレ・フラノの統治をあざ笑って跋扈する正体不明の殺人者<クトゥルフの呼び声>をめぐって闇に引きこまれる、というお話。
 前作につづいて、やはり謀略がにおいたつ内容となっております。ただ、打って変わって元警官のおっさんが主人公で、ハードボイルドの大家=レイモンド・チャンドラーの様式を意図的に用いることもあり、テンションはいくらか抑えめ。サイバーパンク度合いもちょっと控えめです。モチーフ単位で言えば、どちらかといえば伝奇的な風情が強いでしょうか。ノリで言えば少しファウスト賞周辺の香りもほんのり。しかしながら、非常にオタクっぽいディテール群、およびゼロ年代的悪趣味ノリを隠し味として、吉川良太郎らしくなかなかにピリッとした魅せ所の多い作品です。
 両作とも軽快な日本SFながら、作者が仏文趣味だからでしょう、言語感覚の各所にどこかフレンチなシニカルさや(てら)いをにじませています。それがまた吉川流サイバーパンクとして香り高く、爽やかな読み心地につながっていく。お話、文体の両面で真っ向から楽しい作品は稀有なので、初読者ならずとも是非ご一読を。猫と探偵の活躍を読んだあとには、もっと<パレ・フラノ>の暗がりをのぞきたいとお思うはず。ひとつ難を挙げなら、そう思えどシリーズ次作を望めども得られないことでしょうか。両作ともに読むと、あ、これもしてかして三部作の形になればきれいにオチがつくのでは……と思う部分があるのですが、今現在、続編は書かれていません。超悲しい。書いてくれ。頼む。徳間がダメなら、いっそ早川書房がJA文庫に呼びこんでくれ……(心がリアルフィクションの亡霊と化す)。
 ちなみに番外編として『シガレット・ヴァルキリー』『ギャングスターウォーカーズ』の二作品もあります。前者はシリーズを通して活躍するセクシーな職業的犯罪者にして女戦士、シモーヌを主人公とした冒険活劇。人工島<パサージュ・ド・リラダン>を舞台に、マフィアの殺人者と大激突します。針を一定方向に振り切り、国際謀略や組織犯罪がからむときのルパン三世のような面白みを、異能アクションとともに叩きつけてくれる作品です。パレ・フラノシリーズがお口にあえばこちらも是非どうぞ。後者は、同世界観における<魔都・上海>を舞台として、マフィアやギャングスタが異能アクションをやるお話。まあ、なんだ、良く言えばお話よりアイデア重視の作品です。ジャンルとしてはSFというよりも広義のSFとしての伝奇へと大いに接近しています。なんで……?

鬼哭街 (星海社文庫)
 著者:虚淵玄
 出版社:星海社
 出版年:2013年10月
 電子書籍:有(ただし角川スニーカー文庫版)

 オススメ度:★★★☆☆
 ニトロプラスが二〇〇二年にリリースした一八禁ビジュアルノベルのノベライズ版。サイバネティクスの怪物がうろつく近未来の上海を舞台に、妹を嬲り殺しにされた黒幇(マフィア)の元凶 手(アサッシン)が復讐の幽鬼となってひた走る、というお話。
 虚淵玄のギラついた(そしてごみごみした)文体が作品のテイストと非常にマッチしたハードボイルド・アヴェンジングなサイバーパンクです。と、言っても実際のとこ、それほどサイバーパンク色はそこまで強くありません。どちらかといえば、サイバーパンクを「便利なジャンル」として援用したエンタメ通俗SF、というのが正しいのかもしれません。お話の状況作りに、青光りするダークな色彩を援用している。ただし、だからといって生半可な作りになってるわけでもないのです。電磁発勁なる技をもって生身のままサイボーグに対抗できる男が、修羅の如き――というか修羅そのものとなり、マフィアの幹部を抹殺し、妹の魂が分割注入されたガイノイドを強奪していく。わかりやすい浪花節世界観を、刃で刺突するがごときまっすぐさで書いているのですね。
 というかあれだ、言うなれば香港電影の世界。そこにこめられているのは功夫(クンフー)であり、男たちの挽歌であり、武侠小説ぽさも含まれている。
 魂を砕くションボリな復讐劇や、激戦に次ぐ激戦は、現在のサイバーパンクメインストリームのひとつである『ニンジャスレイヤー』まで、そのまま直結できるもの。望むがままに突き進むダークな潰しあいが好きな人にもオススメです。延々と暴力描写に触れていたい人にもオススメ。

オーギュメント・アルカディア
 著者:東出祐一郎
 出版社:朝日新聞出版
 出版年:2013年3月
 電子書籍:無

 オススメ度:★★☆☆☆
 日米露中の企業体が支配する日本のディストピア風都市を舞台に、私立探偵が謎の少女ディを守って大立ち回り、というお話。ディを守って追いつ追われつをした果てに、都市の中心軸を巡る戦いが露呈していく、とかまあそんな感じ。
 一〇年代の作品らしく、サイバー描写においては仮想現実(VR)と並行して拡張現実(AR)を多用しているのが特色でしょうか。それを活かしたバトルが見ものとなっています。活劇としての面においては作者のマッシュアップ趣味性を強く発揮。どこかの映画で見たような風情が頻出する他、バトルがちょっと『鬼哭街』っぽかったり、ヤクザキャラが突然「アイエエエエエ!?」と叫んだり、「フォロワー」としての香りが強くなっています。エロゲライターとしてのデビュー前夜、盟友・鋼屋ジンとともに書いていた吸血鬼フィクションマッシュアップ大長編二次創作『吸血大殲 Blood lust』辺りのノリをキッチリ残している作風。
 あら、このご時世に書籍でそういうノリを……とちょっぴり微妙な気分になる、よく言えば昔気質のラノベっぽい部分もありますが、読み味そのものはかなりライトで陽気です。ジャンルへの入り口とするほか、気楽な作品を求めるとき、既視感(デジャヴ)を求める気持ちに適した作品ではないでしょうか。

殺戮のマトリクスエッジ (ガガガ文庫)
 著者:桜井光
 出版社:小学館
 出版年:2013年11月
 電子書籍:有

 オススメ度:★★★☆☆
 電脳の「コマンド」でゆるやかに統制された海上都市トーキョー・ルルイエを舞台としたサイバー・アクション。都市に潜むメカ怪獣どもをただ一人で狩る少年(眼鏡っ子)が、正体不明の不思議ちゃんとの出会いにより電脳アカウントを狂わされ、さらには都市の暗部に巻きこまれていく――と、かなりわかりやすいお話。
『オーギュメント・アルカディア』につづき、ボーイ・ミーツ・ガールです。エロゲか? ノリはほぼエロゲです。両方も作者は元エロゲライターですしね。
 TRPG『シャドウラン』などの世界観を大いに援用した風合いには、端的に言って目新しさこそないものの、ラノベらしいラノベとしてのスタイルに近くて読みやすいサイバーパンクといえばこれでしょう。続刊はビジュアルノベル的文体がさらに多用されることで、小説としての読み味がイマイチながら、第一巻はそこそこな内容となっております。カバーすべき要素は全部カバーしてあるので入門に最適。
 ただ、読みやすいというのが、この作品では文章の薄さにつながってもいます。そこは好みが分かれるかも。サイバーパンクは往々にして、種々の細部(ディテール)を楽しむ小説という面もあわせもつため、さらっとした、パステルカラーの文章は食い合せがさほどよろしくないのですな。込み入った原色を使う虚淵玄の対極にあるテイスト。
 あと未完のままブン投げになってるのがなにより難点です。完結しないまでも、せめてひと区切りはつけてほしいよね……。

ヴァーティゴ (幻狼ファンタジアノベルス)
 著者:深見真
 出版社:幻冬舎
 出版年:2009年7月
 電子書籍:有

 オススメ度:★★☆☆☆
 近未来の日本を舞台に、サイバーボディのボインボインムチムチブリンブリン(当時三十代前半であった著者の性欲を煮つめたがごとく)なビアンねーちゃんが悪党をボコっていくサイバーパンク警察小説。治安が悪化の一途にある二〇三〇年の東京を舞台に、凶悪犯罪を追うSP上がり&軍隊上がりの女刑事二人組(バディ)が、テクニカルな猟奇殺人に遭遇し、捜査するうちに陰謀のなかへ……というお話。
 作者が筋肉/レズビアン/暴力を好むこともあって、ボインボインと人殺しに特化した小説にございます。特化しすぎ。特に性的な要素はおよそ通学/通勤電車――つまり公共の空間では読みがたい味わいとなっております。
 ページ開いて即眼にはいるのがディープキスしてる挿絵だし!
 エッチなの?! エッチです……。
 また、ボインボインな二人組(バディ)が繰り広げる銃撃戦&格闘の嵐も容赦なし。架空銃器の設定やサイバネティクスによるパワフルな戦闘が、チャック・パラニュークから受けた影響をソリッドに突きつめた文体でガンガン飛びだします。銃器大好き作家としての資質がどこまでも活かされている。その活かされっぷりときたら、銃撃/暴力/暴力/セックス/銃撃/セックス/暴力/そして死という塩梅。ぼ、暴力……。まずもってお話が特殊作戦のシーンからはじまる時点で、作品の方向性はお分かりいただけるかなと思います。
 作品傾向としては、全体的に攻殻機動隊のジュブナイル・ポルノ的パロディと言えばまとまりがいいでしょうか。かといってサイバーパンクとしての性質がヘボいかと言えば、もちろんそんなことはありません。清水建設の超高層建築ネタ、イメージ画像化技術(いわゆる脳機能イメージング)、サイボークの格闘におけるフィジカル云々などの要素もちゃんとフォロー。ちょいオッサン臭い性的描写(昔の暴力エンタメ小説めいたセックスやレイプ)と残酷描写が焼肉弁当めいて脂っこいですが、それらに耐性があればかなり楽しく読める、滋味深いB級サイバーパンクです。

イノセンス After The Long Goodbye (デュアル文庫)
 著者:山田正紀
 出版社:徳間書店
 出版年:2005年9月
 電子書籍:無

 オススメ度:★★★☆☆
 劇場アニメ作品『イノセンス』の公開にあわせ、アニメージュ誌に連載された近未来ハードボイルド長編小説。『攻殻機動隊』のラストにおいて主人公・素子が去ってより幾年が過ぎ去った大都市を舞台に、孤独のなかにあるバトー(素子の相棒)が行方不明になった愛犬ガブを追い求め、街角をさまよう、というお話。
 押井守による『攻殻機動隊』の続編にして、『イノセンス』との空白をつなぐ物語。と、言えなくもないし出版社も言い張っていますが、実際は山田御大が「押井守の攻殻機動隊」との枠組みを使って描いた二次創作というのが正確でしょう。「イノセンス前夜」を謳いつつも、つながりはモチーフを散りばめる程度です。作中世界の造形や、電脳の解釈もなかば山田オリジナル――それは必ずしも悪いことではありません。原典からいくらか脱臼するおかげで、小説単体で読むのが容易になっているのですから。相棒をネットの彼方へ見送ってしまった全身義体化(フルサイボーグ)の捜査官が主人公である。この点だけ押さえておけば充分に楽しいかと思います。お話自体もサービス精神にあふれ、「ブリーダー」なるテロリストの追跡の果てに、ボス戦まで用意している。ハッキングに対して電脳をコントロールして応じるシーンなど、サイバーな部分でも読み応えがあります。
 人を選ぶのは文章のテンポに対する相性と、山田御大によるバトー像と内省がいささか湿っぽすぎるところでしょうか。こと後者は、他作品におけるバトー像が念頭にあると、こんなくよくよした内省をする人だっけ……と思うかもしれません。まあ、士郎正宗/押井守/神山健治/黄瀬和哉と語り手によってちょっとずつ違うから、なんとも言いがたい部分ではありますね。

オイレンシュピーゲル壱 Black & Red & White (角川スニーカー文庫)
 著者:冲方丁
 出版社:角川書店
 出版年:2007年1月
 電子書籍:有

スプライトシュピーゲルI Butterfly & Dragonfly & Honeybee (富士見ファンタジア文庫)
 著者:冲方丁
 出版社:富士見書房
 出版年:2007年1月
 電子書籍:有

 オススメ度:★★★★★★★★★★
 国策にもとづいて機械化を施された少女たちが対テロの戦場に舞い踊る軍事・防諜サイバーパンクシリーズ。
 少年兵の運用が合法化された近未来のオーストリアはウィーンを舞台に、身体障害やネグレクトによって人生を壊された女の子たちが、憲兵隊や公安警察、と巨大な組織のなかで未来を掴みなおすべくして奮闘し、イデオロギーの怪物やその裏に潜んだ武器商人を撃滅すべくひた走る、というお話。
 正味、今現在のサイバーパンク――あるいは清潔な色彩と異質な文化、倫理によって形作られた異質な世界を舞台とするポスト・サイバーパンクとしては、最大級の火力と物量を有する作品です。萌え(というのは死語でしょうか)。外挿法(エクストラポレーション)により形作られる未来。冲方丁お得意の山田風太郎式バトル。諜報活動。政治がバックボーンとなるストーリーライン。それらの要素をあまさずブチこみ、恐ろしく数のステップを刻むフットワークで語られていくのは、一貫して「いまを生き抜き未来を手にする」ということ。清く正しく美しく姿勢良く、ねじけずたちむかうことを残酷な現実との対峙を通して描いていく。その点が、他のサイバーパンクと大きく異なっています。すべてをひとつに凝固させた足場をあがった先に、冲方丁による、「未来を掴むこと」への愛がつまっています。
 また、各作品、各巻でのお話の軸が、
▼墜落した衛星を追う軍事アクション
▼『ダイハード2』めいた空港占拠事件
▼洋ドラ『24』を意識したリアルタイムの対ウィルステロ活動
▼ダルフール紛争の軍事法廷警護
 と、かなり起伏に富んでいるのも印象的。 これらの話はどれも現実と地続きになった問題を、不誠実にならぬよう扱い、それでいてエンターテイメントとしても昇華できている。非常に小気味よい作りです。他方、ダーシやスラッシュなどの記号類、ルビを多用した特異な文体は好き嫌いがはっきり分かれるため、その点で「読みやすさ」は個々人に差異が出るかもしれません。
 それらを込みにしても、愛/異形/防諜活動/軍事作戦が合体した、紛れもない傑作サイバーパンクとしてTHE傑作OF傑作であることは間違いないでしょう。筆者としては超オススメです(THE贔屓OF贔屓)。

ニンジャスレイヤー第1部 ネオサイタマ炎上1
 著者:ブラッドレー・ボンド&フィリップ・N・モーゼズ
 出版社:エンターブレイン
 出版年:2012年9月
 電子書籍:有

 オススメ度:★★★★★
 ブラッドレー・ボンド&フィリップ・N・モーゼズ……もとい、本兌有&杉ライカがニンジャ&畸形的ジャポネスクをフィーチャーして贈る大長編サイバーパンク。
 あるいは、サイバーパンクといえば、と現在(いま)問うたなら、攻殻機動隊などと並んで本作が挙がるのではないでしょうか。それほど昨今の国内サイバーパンク事情に深く関わり、潮流を押し広げてくれた作品です。とは言っても直接触れたことのない人がいる可能性も大いにありましょう。それを考慮して、念のために含めております。
 舞台は鎖国状態の日本――大企業と腐敗した社会システムが人々の魂を抑圧する暗黒都市<ネオサイタマ>。そこにあってささやかな幸福を抱くサラリマンのフジキドが、ニンジャ抗争によって妻子を失い、みずからもまた死の淵に落とされたことで謎のニンジャソウル、ナラクに憑依される。憤怒と憎悪をそそのかすナラクの声に導かれ、フジキドの破滅的な復讐劇が動きだす、というお話。
 もっとも、これは主人公をめぐるメインプロットにすぎません。シリーズ全体では時系列や視点が激しくシャッフルされ、ときに市井の人々、ときに善き心をもつニンジャの眼差しから語りあげる。短い小冊子(リーフ)で回を重ねていくアメコミの販売形式のように、細かな断片の重なりあいで、お話の(おお)きなうねりを形成していくわけです。短編形式のエピソードたちは、どれもがジャンルを凝縮(コンデンスト)することで刺激的にして魅力的になっています。いわゆるところの、山椒は小粒でもぴりりと辛いというやつ。また、「イヤグワ」や「アイエエエエエ!?」に代表される忍殺語(ヘッズスラング)や、クラブ・ミュージックめいた言語の反復もまた魅力のひとつですね。バブル期日本や古史古伝をひずませた日本観やニンジャ設定を筆頭に、奇抜な要素もてんこ盛りにされ、初見での印象はヘンテコ(スプーキー)に尽きましょう。
 ただ、見せかけに騙されるともらいが少ないのは世の常。本作は単なるヘンテコ(スプーキー)でなく、わかっててやっている絶妙なさじ加減でひっかきまわす小説なのですから。なんだろう、こう、「ニンジャスレイヤーという枠組み」を使いあらゆるエンターテイメントのスタイルを試してく器用さと挑発性が常に漂っております。見かけと変則的文体、物量に惑わされず書籍版の一巻だけでも是非手にとってみてください。そこには煮詰められたサイバーパンクがビッチリつまっていて、こと、初期エピソード群は実際スゴイ故。少なくとも、第一部なら全4冊で完結しますしね。

スズメバチの黄色
 著者:ブラッドレー・ボンド&フィリップ・N・モーゼズ
 出版社:KADOKAWA
 出版年:2019年6月
 電子書籍:有

 オススメ度:★★★★☆
 古典たる『ニューロマンサー』の<千葉市>から、近年においては『サイバーパンク2077』の<ナイトシティ>まで、楽しい作品には光と闇を併存させた都市空間がつきものです。本作は、それらに比肩しうる本邦の暗黒未来都市――<ネオサイタマ>の街場(ストリート)を舞台に、裏社会の使い走りから駈けあがる若造たちの戦いを描くお話。
 まず<ネオサイタマ>の語が、『ニンジャスレイヤー』の外伝たる一見さんお断りのハイコンテクスト性を想像させかねませんが、その実、きっちり単体で読めるように構成されているのが本作最大の美点です。ヤクザのパシリである火蛇くんが、敵対ヤクザに追われる少年を助けたのを契機として、ギャングスタへと成り上がっていく。このオーソドックスな筋を、本編に依存せずひと筋に語るわけですね。そのために各所が読みやすく(なら)されています。まず、「ニンジャ」や「カラテ」などの、劇中世界の暗部にして奇矯な本編要素を削ぐ。文体も悪ノリを減らした手堅いものとする。飛び道具でありまた色眼鏡ともなる要素を懐に収めているわけですね。それでいて地味になるかといえば、まったくそんなことはない。お話は本編と遜色なく、愉快なことこのうえなし。爽やかなみずみずしさが街場(ストリート)を生きる男の子たちの心のつながり、「フッド感」というべき部分を引きたてていきます。だからかしら、国内ヒップホップ・レーベル:SUMMITが贈る楽曲群との相性がよく、聴きながら読むとかなりアガることも書き添えておきましょう。ヤクザが跋扈する黒社会やガジェットなどの各種細部(ディテール)にしても、忍殺っぽさを招き入れるものでなく、サイバーパンクとしての艶を補ってやみません。
 調整してなおケレン味に特化した語りに人を選ぶ部分はあるかもしれません。が、サイバーパンクの他にも功夫(クンフー)や侠気、ブロマンスといった要素に心動く人は必須化な一作。思うに、この数年来で刊行されたサイバーパンク小説のなかではトップレベルのエンタメじゃないでしょうか。これは。

楽園追放 rewired サイバーパンクSF傑作選 (ハヤカワ文庫JA)
 著者:V.A.
 出版社:早川書房
 出版年:2014年10月
 電子書籍:無

 オススメ度:★★★☆☆
 CGアニメ『楽園追放』の公開に合わせて刊行された傑作選。
 翻訳モノ慣れしている方は、ちょい本格的なのもいかがでしょうか。収録作は楽園追放のテイストにあわせた傾向/設定/シチュエーションのものをセレクト。特定傾向に寄ってはいるものの、サイバーパンク周辺の今昔をなんとなく追いかけるにはちょうどいいのです。
 クローム襲撃/ウィリアム・ギブスン
 間諜/ブルース・スターリング
 TR4989DA/ 神林長平
 女性型精神構造保持者/大原まり子
 パンツァーボーイ/ウォルター・ジョン・ウィリアムズ
 ロブスター/チャールズ・ストロス
 パンツァークラウンレイヴズ/吉上亮
 常夏の夜/藤井太洋
 入っているのは以上の八作品。
 ギブスンの傑作短編『クローム襲撃』を筆頭に、スターリングの潜入モノやウィリアムズの冒険小説(こちらは第二部でも紹介しております)から、ストロスのハイテク世界、吉上亮のゼロ年代リアルフィクション風ライトノベル、さらには藤井太洋のテクノスリラー風ポスト・サイバーパンクまで、たっぷりと味わえる。前述したように楽園追放のために編まれたため、神林長平のあまりサイバーパンクとは関係ないお話なども入ってはいます。でも、物量はそこそこで定価はおよそ九百円――翻訳モノを経由して気軽にテイストを味わうためのコスパは良いですね。

攻殻機動隊(1) (ヤングマガジンコミックス)
 著者:士郎正宗
 出版社:講談社
 出版年:1991年10月
 電子書籍:有

キヌ六(1) (アフタヌーンコミックス)
 著者:野村亮馬
 出版社:講談社
 出版年:2014年2月
 電子書籍:有

 読んで字を追っててもどんな感じかあんまり頭に湧かないとき、
莫迦かっけー絵面で脳内イメージを補ってくれる大傑作コミックもあるのはご存知ですよねご存じない人います!!!????!
(唐突なレイアウト無視の大声)
 ご存知でないとすれば、この二作がマストです。
 攻殻機動隊は、草薙素子率いる公安九課の防諜戦を描く金字塔。漫画としてはこれ以上のものを描きづらいというところまで突きつめた非常に上質なサイバーパンクです。純粋に日本を舞台として、無線式の没入(ジャックイン)やネットへの融合、アンドロイドやガイノイドの虚しさ/儚さ/悲しさ、変化しても変質は迎えていない国家、そのお膝元に気づかれた猥雑さで天を衝く巨大な都市圏、そのなかで渦巻くテクノロジーの謀など、先駆作品で提示された要素たちを発展的にあつかっていく。しかもその作劇の上では、警察/情報機関/軍事/官僚趣味の硬派な質感を、上方(かみがた)の飄然とした気風でくるみ、物語のリアリズムをささえている。きわめて原理主義的(ファンダメンタル)な設定や展開の渦を、めちゃんこ愉快でいて硬質なエンターテイメントとして昇華しているのです。それが三十年以上の長きに渡って愛され、そしてアニメ作品の叩き台にされやすい理由でもあるのでしょう。
 つまりどういうことかというと、「サイバーパンクってこういうのがマジにカッケーすよね」という具体化がもう抜群な最強メディア。イメージを喚起するためのベースとするだけでなく、もう単純に読まいでかという一作です。
 キヌ六もまた、同じ文脈の上にありますが、その出で立ちは攻殻と正反対のもの。攻殻が連作短編の重なりによる長編とすれば、キヌ六は長編ロードコミック。都市の低処(ひくみ)で飲食店に務めるサイボーグ少女が、尋常ではない身体性を持つ謎の少女との出会いにより、改造樹海で分断された関西へ旅することになる、というお話。その珍道中では、テクノロジーにより異化された土地土地や人々がすれ違っていきます。作品世界は生物学で異質なまでに拡張されていくバイオパンクの要素や、歴史改変による分岐によって形作られ、かなり畸形化した独自の味わいで発展させているのが素晴らしい。攻殻から少しずらした有機的なイメージ感覚は脳の隙間を補填してくれます。しかも、泥くさく近代化(モダナイズ)されたバトルの数々のも死ぬほど恰好良い。攻殻で提示された「機械化された人体のゾッとするような頑丈さ」を、よりバイオレントに、そしてときにタクティカルに描いていくのです。スゲーイイ。
 絵柄は前作『ベントラーベントラー』での、どちらかといえばニューウェーブ寄りなテイストから適度にかわいらしいものに。くっきりとした風合いで描かれる少女たちの心の交歓とライトな百合としての部分も、近来のSFファンには心地よいでしょう。
 この二作品を読めば、本を読んでても模糊とした造形や風情への脳内補完がかなり効くはず。そういう理由で並べてみましたが、いやこれ単純に作品礼賛になってんな。まあいいか。

 と、ひとまず入手難度が低めで読みやすいのはこんなとこ。
 ここからサイバーパンクをキックを楽しんで、翻訳モノのサイバーパンク(それこそが鉱脈)に手を伸ばしていくのも善きではないかなと個人的には思います。
第二部:翻訳モノも良いは良い。
chap2 [ All road lead to "Black ICE" ]
 と、いうことで、上記の作品を楽しめた人は、様々な作品のベーシックとなっている、より濃厚な以下の翻訳モノを読んでみてはイカガでしょう。

重力が衰えるとき (ハヤカワ文庫SF)
 著者:ジョージ・アレック・エフィンジャー
 訳:浅倉久志
 出版社:早川書房
 出版年:1989年9月
 電子書籍:無

 読解難度:★★☆☆☆(ちょいがっしりした翻訳調)
 入手難度:★☆☆☆☆(新装版有)
 欧米の凋落やら何やらで変転を迎えた時代のイスラーム世界を舞台とするハードボイルド風電脳探偵小説。大犯罪都市――ブーダイーンの黒社会で探偵役を引き受けている自称一匹狼が、依頼主が眼前で殺されるという事態を深堀りすべく黒社会を右往左往したり、自称ジェームズ・ボンドと戦わされたりする、というお話。
 兎角、ことあるごとに披露されるイスラーム様式が独特な一作です。作品世界の各所を彩るのは家父長制度に基づく規範や、「やりとり」を重視することで定型化されたことばの数々。お話の筋こそチャンドラー風の典型的造作ながら、表皮を張り替えることでその膚ざわり(テクスチャ)はすっかり異化されています。探偵稼業と犯罪都市の組み合わせによるアーバンな気配と裏腹に、劇中では乾いた異国の情緒がどこまでもひしめく。それはもちろん、悪徳に満ちあふれたブーダイーンの風情を描くうえでも活かされている。
 そこに読みやすさを加味するのが、一人称によるどこかボンクラくさい語りです。主人公であるマリードは、腕っ節よりか、ノラクラした構えで歩くのが似合う手合。その辺が浅倉御大の訳と相まって、ストレートかつハードすぎない、ちょっととぼけた風情を生んでいます。
 また、サイバー設定もそれほど込み入っておりません。メインとなるのは「モディー」という技術。端末化した脳にセットすると別人格や物語の登場人物をエミュレートできるこれを使い、きらびやかなネオンの奥を捜査していく。テイストとしては、第一部で紹介した『イノセンス After The Long Goodbye』に近いです。お話がスロースターター気味なのはそこそこ大きな弱点ですが、他の作品にはない空気感を投げかける佳作と言っていいでしょう。

ハードワイヤード〈上〉 (ハヤカワ文庫SF)
 著者:ウォルター・ジョン・ウィリアムズ
 訳:酒井昭伸
 出版社:早川書房
 出版年:1989年4月
 電子書籍:無

 読解難度:★☆☆☆☆(ほぼラノベのライトな翻訳調)
 入手難度:★★★☆☆(中古メイン)
 便乗的ジャンル搾取(エクスプロイテーション)でもってサイバーパンクから「それっぽさ」を抽出したバトルアクション小説。時は二一世紀、荒廃したアメリカを舞台として、伝説的な運び屋(パンツァーボーイ)であるカウボーイ(ナイーヴ)とサイボーグ姉ちゃん(ヘッポコ)が搾取者である軌道上コンツェルンに戦いを挑む、というお話。
 最初にあった「文学的な運動」の相に興味はなく、ファッション性を楽しみたい。サブカルチャーにはそうした流れがつきもので、本作もそうした流れに乗った一作。SFらしいSFというよか、SFを衣とした大暴れを描く娯楽作です。そもそもはゼラズニイの『地獄のハイウェイ』が元ネタであると言えば、わかる人にはどことなくテイストが感じとれるのではないでしょうか。悪く言うなら、あくまでも『地獄のハイウェイ』的なお話をやるのが目的だから、サイバーパンクは香辛料でしかありません。ですが、それは翻って言えばエンタメノリをマジに重視しているということでもあります。
 つまり、滅法読みやすい。
 翻訳モノサイバーパンクにおいては唯一無二と言えようレベルで現代文学的な部分を削ぎ落とし、兎に角、崩壊後の世界(ポスト・アポカリプス)風世界でのアクションに振っている。しかもホバー・タンクでの大暴れからエースコンバット的空戦まで、バトル盛りだくさんの筋肉モリモリマッチョマンな内容とくれば、もう。もうもうわかりやすい。荒れ果てた世界をアウトローが歩むためでしょうか、八〇年代オリジナルビデオアニメ(OVA)を彷彿とさせる、退廃的スチャラカ感までが漂っています。虚淵玄が影響を公言するのも納得。

ドローンランド
 著者:トム・ヒレンブラント
 訳:赤坂桃子
 出版社:河出書房新社
 出版年:2016年1月
 電子書籍:無

 読解難度:★☆☆☆☆(軽めの翻訳調)
 入手難度:★☆☆☆☆(中古価格低め)
 無数のドローンによる監視体制でディストピアとなったEUを舞台とするミステリ風ポスト・サイバーパンク小説。欧州刑事警察機構(ユーロポール)所属のヴェスターホイゼン主任警部が、欧州議会議員殺人事件を捜査するうちに陰謀の渦へと飲みこまれていく……というお話。
 あらすじだけだと硬派っぽい雰囲気ですが、まずもって主人公は、ハードボイルドになりたいけどなりきれないリコリス菓子(ラクリッツ)(日本だとハリボーのタイヤグミが著名)とハンフリー・ボガードが好きなおっさん。かつて「ソーラー戦争」に従軍した経験が少し影を落とす人物ですが、一人称の語り口にはなかなか愛嬌があります。しかも赤坂桃子氏による平易な訳のおかげで読みやすいとくれば、オススメ作品としても挙げやすいですね。基本となる設定が現実と地続きの問題を主軸としているため飲みこみやすいのもよございます。超監視社会化をささえる大小無数のドローンや電脳眼鏡(スペックス)による情報収集、公的機関によるデータ・マイニング――パッと見でウヘェ……と思わせる環境は、プライバシーを切り売りする現代の一歩向う側にあるのですから。
 とはいえ、本筋はきちっと面白いSFミステリ。いびつな社会構造を通して考えさせる社会派の面はあっても、重い空気には終始しません。監視社会の穴に生じた事件を追求する捜査パートは、お仕事モノとしての抑制が利きつつも牽引力が強いのです。厖大なデータから犯行現場を電子上で再構成する「ミラーリング」などを用い、あるときは捜査スパコン<テリー>にブチキレ、またあるときは情報を組みあわせ、たまに分析官のヒロインといちゃつく――各所に賑々しさが散りばめられ、読み心地が地味になりすぎないのも善きですね。一方で、急激にテンションをあげてブチかますアクションもまた恰好良かったりして。<テリー>との連携で敵戦力を即座に分析し、おぞましい殺傷性火器にテキパキと対応を講じるシーンはサイバー銃撃戦が好きな人ならキャッキャしてしまうはず。
 ミステリ畑とSF畑のミックスはたまに大変な良作を生みますが、これはとりわけ良い例ではないでしょうか。サイバーパンク小説だとの共通認識がないのかオススメに挙がりづらい本ですが、翻訳物のなかでは特にマジ超オススメ。最高。下手に『ニューロマンサー』から読まず、まずこれに触れたほうがいい、と言っても全然過言となりません。刊行から数年を経てるおかげで古本はバンバン出回っており、入手しやすいのも良し。いや個人的には文庫化してほしいんですけどね……(買い直したいしヒレンブラントにお金落としたい……)。

ネクサス(上) (ハヤカワ文庫SF)
 著者:ラメズ・ナム
 訳:中原尚哉
 出版社:早川書房
 出版年:2017年9月
 電子書籍:有

 読解難度:★☆☆☆☆(軽めの翻訳)
 入手難度:★★☆☆☆(上下巻て高価いよね)
 神経科学によって進化した人類(ポスト・ヒューマン)が実現に近づきながら、これを危険視したアメリカが規制を訴える近未来を舞台としたモダン・サイバーパンク小説。若き科学者ケイドが、神経リンクで感覚や記憶、気持ちを他人と共有できる違法ナノマシンを製造したかどで国土安全保障省(DHS)新型リスク対策局(ERD)に逮捕され、仲間を救うことと引き換えにスパイとして中国の科学者を探る破目に、というお話。
 ナノマシンにより脳を端末化し、身体の各機能を御する――神経学的ハイテクが浸透しつつある世界は、グレッグ・イーガンらの九〇年代作家を経由して、日本では伊藤計劃に通ずる当世風の趣ですね。かといって生真面目一辺倒にせずアクション満載なのがまた当世風と言えましょう。ナイーヴなあんちゃんがスパイ活動を強制され、あがき、成長し、出会った人々ともに生き残ろうとする。そこにタイ王国の熱気や仏教的世界観というエキゾチックな衣を着付けて描かれる戦いは、かなり映像的で読みやすい。しかも意外に多いのが暴力要素。お話が大きく転がるときには格闘と銃撃が吹き荒れ、ハリウッド製アクション映画の作法がにおいたつのです。具体的に言えば『ボーン・アイデンティティー』からはじまる一連のシリーズぽさが色濃いですね。それを色とりどりのガジェットが彩り、感情制御アプリの「明鏡止水パッケージ」や自動格闘術アプリ「ブルース・リー」にはじまり、ヒロインである捜査官を内側から強化するハイテク技術、フル装備の特殊部隊や暗殺ドローンなど、各所でサイバーパンク冒険小説たる味わいを高めてくれます。
 もちろん、善い味わいはエンタメ要素だけではありません。倫理面で諸刃の剣となるテクノロジーへの問いかけと、それをなお信じる理想。サイバーパンクらしい個人vs体制、そしてイデオロギーの対立。アメリカを規制に導いたトランスヒューマン技術悪用の悲劇。テクノロジーと仏教とが交錯する宗教体験。米中間のスパイ戦争を幹として、鮮やかなサイエンス・フィクションの葉が触れやすい形で茂っている。
 惜しむらくは、三部作ながら第一部である本作の刊行以降は音沙汰がないことでしょうか。フィリップ・K・ディック賞を受賞した「Apex」を読める日は来るのかな……。来ないか……。

ニューロマンサー (ハヤカワ文庫SF)
 著者:ウィリアム・ギブスン
 訳:黒丸尚
 出版社:早川書房
 出版年:1986年7月
 電子書籍:有

 読解難度:★★★★★(翻訳文体の癖非常に強し)
 入手難度:★☆☆☆☆(新装版・電書有)
 でおったな、原初にして最大の極悪ハードコア本!
 ちょっとした粗相から電脳世界を駈けるカウボーイとしての没入(ジャック・イン)能力を奪われ、人生を棒に振りまくりながら日本に流れ着いた若者ケイスが、みずからの人生を取り戻すことと引き換えに謎多き仕事(ラン)を引き受け、千葉からニューヨーク、イスタンブール、そして宇宙へと練り歩くお話。
 言うまでもなく、サイバーパンク最大の古典(クラシック)です。意識をネット上に投じる感覚的ハッキングや電脳犯罪、ファッショナブルなアウトローの姿は、驚くべきことに、この時点ですべて描かれています。コンピュータになじみのない男がタイプライターで記し、一九八四年に刊行された。その事実とあわせて冗談のように思えちゃいますね。こうして生まれたパンキッシュな視座は、一足早く公開された『ブレードランナー』の退廃性とあわせ、その後、数十年に渡って愛されるスタンダードのかたちを決定づけました。
 そしてまた、その文芸としての質は比類がありません。世界の像に幻視を重ねあわせる詩性に富んだ筆致は、ウィリアム・バロウズやJ・G・バラードといった幻視者(ヴィジョネール)の系譜。語りに抱くクールネスのローカライズを担った黒丸尚(クロマ・ヒサシ)氏による、ルビの多用や疑問符の代用として三点リーダを使う独自の翻訳文体も忘れてはいけませんね。恰好良さの極みにあるそれは本邦において、数々のフォロワーを生んでいます。それらの色褪せない独自性が、「読みにくさ」という瑕瑾にも化けることこそ、本作のすこぶる恐ろしいところでしょう。くっきりと色彩を喚起し、かと思えば、ときにどう描写しているのかさえ見失う言いまわし。抽象性が強く、オブジェのありようを語りあげるかのような修辞。それらが入り乱れる読み味は万華鏡を覗くかのようなものとなり、(くみ)することはたやすくない。それこそ旧装幀版における奥村靫正(オクムラ・ユキマサ)氏(YMOのアートワークで有名ですね)による装画みたいな顔になっちゃう。ただ、得も言われぬ味わいは一度ハマるともう病みつきです。
 お話の筋も、実はダウナーなピカレスク青春小説として楽しいのです。若く繊細なアウトローたちが、サイバー犯罪に手を染め、命や(サグ)いプライドを賭けて戦っていく。際どい道を歩んでいく胸に秘めた刹那的でセンチメンタルな魂は、いまなおきらめいています。ギブスン一流の膚ざわり(テクスチャ)をかぶせて描かれていく強奪作戦や潜入も、電脳活劇としての冷え冷えとしたワクワクも最高。
 訳出から三五年。多くのフォロワーを生んでも、まだ摩滅してはいない。どれだけ手垢がついたところで、本当の珠は、拭いさえすればいまだ清冽な艶を宿している――それを教えてくれる傑作なのです。と、良き本であるといくら語ったところで、いざ文面と睨みあうと、油断したら筋を追うのも困難に感じてしまう本であることは、やはり否定できませんね。
 毒を食らわば皿まで。難しいかもだけど、どうせ読むなら古典もきちっと楽しみたいぜ、とお思いの方に幸いなのは、以下の本を読めば読解難度がかなり下がるとの事実です。
【増補改訂版】ウィリアム・ギブスン (現代作家ガイド 3)
 編著:巽孝之・新島進
 出版社:彩流社
 出版年:2015年6月
 電子書籍:無

 こちらの本には劇中設定解説、全作品のあらすじが詳細に記されているのです。アシストとして併読すれば、どうにか通読には困らないでしょう。他にも書評やギブスンによるエッセイ、レアい短編が収められ、ギブスンを理解する上でもかなり役に立ってくれるはずです。サイバーパンクの基本を理解していくうえでも、これ以上ないお役立ち要素のかたまりと言っていいかもしれませんね。
 あとはミもフタもな話ですが、近来はウィキペディアの当該作品項目が非常に充実しています。あらすじとかもきれいに要約されているので、まあ、懐の寂しい人にも優しいですね。攻略本として参照してはいかがでしょうか。

クローム襲撃 (ハヤカワ文庫SF)
 著者:ウィリアム・ギブスン
 訳:黒丸尚、浅倉久志、酒井昭伸、小川隆
 出版社:早川書房
 出版年:1987年5月
 電子書籍:有

 読解難度:★★★☆☆(部分的に翻訳文体の癖強し)
 入手難度:★☆☆☆☆(新装版・電書有)
 電脳青春ピカレスクとしてシンプル楽しい『記憶屋ジョニイ』や『クローム襲撃』など、『ニューロマンサー』の前日譚を収めた傑作短篇集。こと、ニューロマのヒロインであるモリイが登場する『記憶屋ジョニイ』は、人物のラブリーさあり、バトル要素あり、都市探検要素あり、忍殺的にアレな日本要素もあり、と短いなかに楽しさがギュッとつまっています。加えて、サイバーパンクのジャンル枠に縛られることのない『辺境』とかもやたらカッコよかったり。小品の連なりとしての心地よさがすごいのですよ。
 ちなみに字詰めや級数の関係上、紙面のキマり具合は旧版のほうが上だったりします。一方、新装版はトールサイズとなったおかげで読みやすさが段違い。

スノウ・クラッシュ〈上〉 (ハヤカワ文庫SF)
 著者:ニール・スティーヴンスン
 訳:日暮雅通
 出版社:早川書房
 出版年:2001年4月
 電子書籍:有

 読解難度:★★☆☆☆(ちょい硬めの翻訳調)
 入手難度:★☆☆☆☆(新版&電書刊行!)
 国土をフランチャイズ国家によって分割された近未来のアメリカを舞台に、仮想空間「メタヴァース」の大物、黒人剣士ハッカー(?!)のヒロ・プロタゴニストが新種のデジタルドラッグを巡って大活躍したりしなかったりするポップ冒険小説。
 基本は九〇年代チックなアウトロー青春小説のスタイルに則っるものの、先見性とポップ性にあふれる作風は、いま読んでも眼をみはらざるを得ません。九二年の時点でメタヴァース(セカンドライフなどに強いインスピレーションをあたえたと言われています)を描きだすイマジネーション。新種のドラッグ「スノウ・クラッシュ」がらみの大事件。それらがお話を導き、さまざまな人々の視点があっちへこっちへと飛んだり跳ねたりする楽しさ。そして、同時代の作家で言えばチャック・パラニューク(代表作:ファイトクラブ)やアーヴィン・ウェルシュ(代表作:トレイン・スポッティング)と近いところにあるポップ・センス。どれもがうまいことからみあっています。
 ハードSFとしての面を兼ね備えており、半端ないクール・ボーイ、と呼んでも過言とはならないでしょう。ちょっと勢いつけすぎてカッ飛ばすあまり、調子っ外れになる部分もありますが、気が合えば大変楽しい上下巻です。また、文庫版は鶴巻和哉(フリクリ/トップをねらえ2/新劇エヴァ監督)による表紙絵もめちゃくちゃラブリー。ビビッドなイエローとピンクの、モロにモロな九〇年代末感にはときめいちゃう。
 唯一、本気で爪の先から頭の天辺まで真底難渋しちゃう点は、中古価格あがりっぷりでしょう。安くなってるのを見つけたらマストお買い上げください。二二年、ついに新装版と電子書籍版が刊行されました(表紙が鶴巻絵じゃないのだけ残念)。買って後悔は絶対にしない、と筆者は言い切ります。買え。
 あとはダイヤモンド・エイジも電子書籍化されました。こっちもポスト・サイバーパンクの最高峰のひとつなのでマストです。

グローバルヘッド
 著者:ブルース・スターリング
 訳:嶋田洋一
 出版社:ジャストシステム
 出版年:1997年7月
 電子書籍:無

 読解難度:★★☆☆☆(軽めの翻訳調)
 入手難度:★★★★☆(中古メイン)
 八〇年代サイバーパンク運動の大ボスによる、サイバーパンク以降のイマジネーションを拡張する短篇集。長編『スキズマトリックス(八五年)』の時期から、エッセイ『80年代サイバーパンク終結宣言(九一年)』前後までの各種短編を収録。
 傑作長編の『スキズマトリックス』をはじめとして、ほとんどの作品がとっつきにくいスターリングですが、本作は比較的お手軽な内容です。というのも、のびのびした雰囲気のアイデアSFがたくさん入っているが故。変な設定がマジで多い。サイバーパンク方面の視点で注目すべきは、『われらが神経チェルノブイリ』と『あわれみ深くデジタルなる』でしょう。前者は、遺伝子ハッキングによる知能向上ウィルスが大規模災害を起こし、大変な変化に見舞われてしまった世界を架空書評から描きだす短編。後者は、イスラーム社会で生みだされたAIが演説でアッラーへの信仰を滔々と語りあげる短編。と、簡単なあらすじだけだと一瞬マジメっぽく身構えかねませんが、二作ともテッキーな楽しさですっ飛ばし、良い具合に気の抜ける膝カックンをかましてくれる良作です。
 ギブスンと並んでサイバーパンク運動の中心たる作家ながら、ともすればサイバーパンクにつきまといかねない偏見の皮をむき、境界を飛び越えていく作風は素敵です。他の短編にしても、奇妙な味から伝奇的かつジョークめいた小ネタ、ちょっとジャーナリスティックな視線の話、果ては現代文学っぽいのまで幅広くフォローしており、楽しくノンビリ読めること間違いなし。
第三部:あるいはトばし気味のセレクト。
chap3 [ Leggo crazy ]
 このリストをお読みになって、読みやすさとか気にせんし、とお思いの方もなかにはいるのではないでしょうか。つーこって可読性や入手難度をバッチリ無視して、方向性と精髄(エッセンス)を求めたセレクトもフローチャート化してみました。別に順番通り読む必要はまったくないんですが、まあ単なる羅列も見栄えが悪いですしね。

▼軍事・諜報趣味(特殊部隊や諜報活動、捜査活動を描く)
 
ペロー・ザ・キャット全仕事/吉川良太郎
 イノセンス After The Long Goodbye/山田正紀
 ヴァーティゴ/深見真
 虐殺器官/伊藤計劃
 ドローンランド/トム・ヒレンブラント
 シュピーゲル・シリーズ/冲方丁
 ハーモニー/伊藤計劃
 ネクサス/ラメズ・ナム
 ネットの中の島々/ブルース・スターリング
▼探偵モノ趣味(探偵役がウロウロする)
 
ペロー・ザ・キャット全仕事/吉川良太郎
 ボーイソプラノ/吉川良太郎
 重力が衰えるとき/ジョージ・アレック・エフィンジャー
 オルタード・カーボン/リチャード・モーガン
▼コア・オブ・コア(原点寄りの濃いの)
 
ミラーシェード-サイバーパンク・アンソロジー
 ニューロマンサー/ウィリアム・ギブスン
 クローム襲撃/ウィリアム・ギブスン
 カウント・ゼロ/ウィリアム・ギブスン
 モナリザ・オーヴァドライヴ/ウィリアム・ギブスン
 スキズマトリックス/ブルース・スターリング
 ホーリー・ファイアー/ブルース・スターリング
 スノウ・クラッシュ/ニール・スティーヴンスン
 ダイヤモンド・エイジ/ニール・スティーヴンスン
 アッチェレランド/チャールズ・ストロス
▼オルタナティヴ(尖ってたり異ジャンルをミックス)
 
バレエ・メカニック/津原泰水
 ディファレンス・エンジン/ウィリアム・ギブスン
 グローバルヘッド/ブルース・スターリング
 赤い星/高野史緒
 ヴァスラフ/高野史緒

 サイバーパンクとは概してピカレスク/探偵/スパイ/軍事と相性が良いものです。それはニューロマの時点からずっとそう。というわけで、それを意識したスタンダード寄りのセレクトから、ちょっと特殊な設定の本までを並べてみました。セレクト内容に関する異論は大いに認める(ノリで選んだから)。
 伊藤計劃は「ゼロ年代SFの人」と大きなくくりに入れられがちですが、作風で言えば、サイバーパンク/ポスト・サイバーパンクからの影響がかなり顕著な作家です。なにせスターリング好きを公言し、使っていた文は黒丸尚の様式を継いだもの。作品内において、ポップなサイエンス・トピックによる外挿法(エクストラポレーション)を多用し、社会学的イマジネーションで遊んでいたりするのもサイバーパンク的ですね。恰好良さを減損させずに、国内作家としての読みやすさとモダン性を上乗せした、現代のサイバーパンクといった趣の作品たちは、数の少なさこそ悔やまれるけれど、いまなお面白い。『ハーモニー』がスターリング作品への愛着を丸出しすぎだったり、そういうおたくっぽさもラブリー。いや、それは贔屓目がすぎるか。兎角、あんまり国内作家好きじゃない……という方も、よければ手にとってみてほしいところです。
 高野文緒はなかなかとんでもないオルタナ趣味と表現するほかない作品を発表しておりますね。非現代〜未来を、つまり一九世紀ヨーロッパなどを舞台として異化された世界を描く。作品で言えば、ハッカーネタを一九世紀フランスに持ちこんだ『カントアンジェリコ』や、帝政ロシアに支配された江戸(?!)でハッカー町娘(!!?!)が冒険を繰り広げる『赤い星』が二大どうにかしてる案件。ちなみに『ヴァスラフ』は舞踏(バレエ)とヴァーツラフ・ニジンスキーを題にとり、帝政時代のロシアを舞台とするサイバーパンク。いちいち古い時代にネットワーク技術とかを持ちこむのどうにかしてるし、わけわかんなくて楽しい。そういう、もういろいろムチャクチャしてんなこれ……という作品が読みたい気分にしっくりくるものと思われます。
付記。
ex [ soliloquizing ]
 世には『マルドゥック・スクランブル』をサイバーパンクとして挙げられる方がそれなりにいまして、このリストの公開当初にも、何故あれを入れない、とのリアクションをよくいただきました。当該作品がリスト入りしていないのには一応の意図があります。と言いますのも、『マルドゥック・スクランブル』および続編の『〜ヴェロシティ』はいかんせん「(プレ)サイバーパンク」なのです。情報技術やサイボーグ技術、それらハイ・テックが市井の環境――あるいは、ドブと反吐のにおいがする路地裏にまでは溶けこんでない。マルドゥックは各種の「極端なテクノロジー」がまだ「ごく限られた人々の所有する範疇」にあり、未解禁に近いからちょっと違う。
 同じく冲方丁の手による『シュピーゲル』シリーズを含めるのは、かの作品よりもテクノロジーの浸透度や取り扱いかたが、もう一歩だけ先に踏みこんでいる、との判断からです。そこをご理解いただけると幸い至極。古橋秀之による『ブラックロッド』からはじまるケイオスヘキサ三部作にしても、サイバーパンクの方法論を援用した超伝奇なので除外してあります。
 似たものはあくまでも似たものに過ぎない、ということで、ひとつ。ほら、アレじゃん。中国料理やら台湾料理やら韓国料理やらのアジア料理って、それぞれが影響しあってはいるけども、基本、別の料理じゃん。そういう話。適当すぎると「サイバーパンクというくくり」のガイドである必要が失せちゃいますしね。


 では、くっだんねェ御託は脇に投げやって。
 このページが、サイバーパンクへの善き出発(ディパーチャ)の助けとならんことを、心から願っております。
 神のご加護(ゴッド・スピード)、あるいは、主の愛があらんことを(ジャー・ラヴ)

 記述:二〇一五年 / 加筆:二〇一九年五月 / 再加筆:二〇二一年九月

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