▼身体的ぐったりに精神的げんなりが重なり、ちょっと伏せってしっとりしていた。マドレーヌから剥がした敷き紙程度のしっとり感。
▼伝奇をいま現在の感覚で改めてとらえなおそう、つーこってSIRENシリーズのプレイ動画見返し、マニアックスを読み直し、2のマニアックスも買い、というのをやってたら再ブームが。また?! またですわ。1のサントラも買ったんだけどイヤホンつけて音楽作品として聴くと味わい深くて楽しい。湿気が生ぐさくに胸に行き渡るようなダーク・アンビエント感は独特で、海外のミックステープにはないたぐいなだけに。音色や質を変えながら細部に反復されるサイレンの抑揚。セイレーンが人を真似るようないびつな歌声。現代音楽の重々しいテクスチャを恐怖感というか、正気に揺さぶりをかける震えとして援用してる感じ。それらによる重層的な居心地悪さがたまらず、特にテルミンらしき音色がざわめきの織りこめられた「眞魚川護岸工事現場」がぞわつく。ブラボもそうだけど、現代音楽を上手に引きこむ劇伴は強いな。作業用BGMにすると手際がちょい安定し当面お世話になりそう。
▼シン・エヴァ冒頭十分の
「エヴァの軍事転用を禁じたヴァチカン条約違反の代物ね。陽電子砲装備の陸戦用後方支援とお付きの電力供給特化型44Bのダブル投入とは――」と説明台辞のテンションぶち上げっぷりは尋常でなく、見て聞いて書き留めるとともに、声に出して読むレベルで好き。説明ガンガン。でも気持ちいいのはすごく、ここらは脚本と演技の魔力だな。公開は来年六月かー。人生のなかで長い、かなりかなり長い時間触れてきたコンテンツの本当の終着点を、切実に待ち望む気持ちが再燃したね。
▼madsanというYoutubeアカウントがすこぶる好ましく、やる気が起こらないときによく見てる。過去番組の録画から、あいだに挟まったCMルだけ抜き出してアップロードしているんだけど、これがもう心拍数を上げること上げること。見てて思ったんだけど、こういうのは単純にCM集とのまとめにするのでなく、その番組枠単位で切り取るからこそ、感情の喚起力がでるのだな。なんだろう、そうすることでなにかシニフィエがたちあがるというか。いやもちろん何年代のCM集みたいのも好きは好きなので、否定はしますまい。
心くすぐってくるのは例によって例のごとく、九〇年代~一桁年代のもの。いちばんテレビを見てた頃。当時の映像、しかも深夜帯に流れる低予算系となると、覚えてるよりも映像構成と使われているCGの質がしょぼく、「いまの感覚を通して補完されてた記憶」との齟齬が脳みそを刺してくるのが楽しい。ことうーわすげぇローファイじゃん、と笑ってしまったのはアイフルのお自動さん。やばい。これが資生堂とかの化粧品CMだと、デザイン感覚という洗練性が生じてグラフィカルなのでまた話が違ってくる。女優、レイアウト、照明!みたいな。まあでもそれにしても一桁年代以降って時間経過の感覚がどこかしら曖昧になってて、言うてそんな変わってないでしょ、と思っても意外と段違い。コマーシャルではないけど、ウェザーブレイクとかも懐かしさにひるむ。やけに早口な「ウェザーブレイク」の発音。PS1レベルのローレズなテクスチャ。はじまってすぐ終わる構成。深夜まで起きてテレ東のアニメを見ていた関東ローカルのガキンコにはなじみ深い。まだ流れているのかしら。こういうのが気になってテレビが欲しくなってしまう瞬間を否定できない……。
アニメの提供画面で角川書店やバンダイ、ゲーム会社の名前が並ぶとメディアミックス激攻め時代としての趣があっていい、という話もまたある。めぐりだすときりがない思いをもてあそぶ楽しさよ……いや見てないでやることやれやって話でございます。
▼買ったり。
SIREN ReBIRTH1~4/浅田有皆
立腹帖 内田百閒集成2/内田百閒
死者の花嫁 葬送と追憶の列島史/佐藤弘夫
スキップとローファー1~2/高松美咲
行進子犬に恋文を1~3/玉崎たま
チェンソーマン3/藤本タツキ
のぞきめ/三津田信三
日本近代科学史/村上陽一郎
サイレントヒル/山下定
サイレントヒル3/山下定
人体六〇〇万年史 科学が明かす進化・健康・疾病上下/ダニエル・E・リーバーマン
危険なヴィジョン2
現代思想 2019年7月号 特集 考現学とはなにか -今和次郎から路上観察学、そして<暮らし>の時代へ-
サイレン2マニアックス
スキップとローファーがもつ暖かさは無類で、ちょっと気がささくれてるときに読んだら逆だって引っかかり痛い部分を、一箇所残らずカットされてしまった……。主人公のみつみちゃん(四白眼で猫っぽくて口がM字になるおかっぱちゃん!)の素直に反応して、反省して、前に進んでいく感じは愛らしいし、登場する他の子たちにしてもわんこ系男子でもギャルちゃんでも根暗ちゃんでも、みんな愛らしくて善き。人間関係のとげっぽいとこ、それを越えてける優しさを描くのがうまくて、ずっと読んでいたい漫画にございますわ。触れているあいだの和やかさがすみれファンファーレに近い。
現代思想誌にpanpanyaさんが載るすごさよ。あたかもその眼で観察してきたような、しかしそのじつ架空である、自分が通ったかも知れない通学路なるモチーフを通して、考現学/路上観察学的な目のつけどころによるエッセイをやってるのが楽しい。これ目当てで買った面が大きいんだけど、それ抜きにしてもすごくいい特集になってた。巻頭の藤森照信と中谷礼仁の対談からして、今和次郎と柳田國男の視差、心の置きどころの違いという基本的なところからはじまり、切り取られる「生活」、生と死、神にまつわる議題にまでつながっていくスケール感とか楽しかったしな……。中谷さんの本も面白そうだしそのうち読みたいものです。寄稿テキストでは、
「アーカイブ的統治とフェティシズムから考える考現学」と
「考現学と帝国主義」が特に面白かったな。考現学に含まれる棘を取り出してるのを読めて、それがいまやってる創作がらみで結構関わってくる感じ。例えば後者における、日本統治下の朝鮮にける調査のなかで、どうして汚い家ばかり写真にとるのか、と若い通訳から詰問されたエピソードに含まれた視線とか。「差別的な発言をすることよりも、この差別を構造化することに加担していることの方がより罪が重いことに気がついている」という記述とか。眼差しという暴力とか。それに抗おうとする態度とか。そういうのを引き出していく。ただの肯定に終始しない。アーカイブ的統治~にしても、アウシュビッツや格子写真を経由させることで、データベース化に険を覗かせる瞬間があって、読んでてぞくっときた。行為の背面に隠れた反物語的なフェティッシュを可視化する感じもちょっと居心地悪い(褒めことば……なのか?)。わりと何度も読み返してる。ただユリイカもそうだけど、表紙の紙質をもうちょっとどうにかしてほしいな……カバーを掛けられないサイズ感で、そのくせめっちゃ傷みやすい……。
サイレントヒル3ノベライズは百円だったのでつい買っちった。もう4までのシリーズ全作が好きなんだけど、3は特に我が強く、ふざけんなよ、なんで奪われなきゃいけないんだよ、許さねぇ……という主人公=ヘザーの態度を明確にして弔う話なのが気安く愛しやすい。復讐に関して「自己満足くらいは生むでしょ」と言い放つ、妙な前向きさ。そういう気持ちがあるんだけど、思ってたどころではない細部のフォローっぷりで、気持ちを覆されてしまった。お話が「復讐」という筋の、一歩先にいってた。
以下、言いたいことがネタバレだけどみんなどうせ3はプレイしてるでしょ、みたいなあれ。日常を奪われた。父を殺された。それが他人への怒りを膨れあがらせる。決して許せやしない。そういうふうな感情が主な駆動因となっているアグレッシブさこそ3の特徴なんだけど、それだけに尽きないように再構成してある。怒りに任せて動く時間が、原作ゲームよりもずっと短くしてあるんだよな。ある段階を超えてからは、「前世の自分=アレッサ」が味わった苦痛の追体験や、苦しみながら抱いた祈りに触れながら、「現世の自分/ヘザー」を追いかけてくる悲しい因果に終止符を打つため、「二人」の、あるいは「三人」のあらがいにむかっていく。
神を下ろすために人生を奪われた、サイレントヒルに妄執を刻むアレッサ。
アレッサの写し身として魂を分けられ、サイレントヒルに消えたシェリル。
そしてアレッサとシェリルが転生し、教団と因果に追われつづけたヘザー。
サイレントヒルをめぐる怪異の軸にあった三人が、融けあうというよりか、ともに手をとりあうようにしてあらがっていくような作劇が好みのど真ん中(それがスゲー上手とまでは言わないけど)。ゲームと違って「自己満足くらいは生むでしょ」という台詞を使わないように会話劇が組まれてるんだけど、その点に関しても、ヘザーのなかに宿るアレッサの思いの断片とか、そういうものを思うとかなり腑に落ちる。
全体的に脇役をフォローする独自設定が多いんだけど、そこにあってクローディアの人物像にも異なった趣が加えてあるのも良い。ヘザーの父にして1の主人公であるハリーを亡きものとした傲慢な司祭。原作だとひたすらこれに尽きると思うのだけど、単なる悪者に留まらさせない人物像がプッシュされて、なかばヒロインポジションになってる。きちんと悲しい因果のひとつになってる、というか。関係性が、いわばアレッサ×クローディアによる百合になってんだよな……。もっと正確に言えば百合のグラデーション(恋とはまた別の愛情)、シスターフッド。ささやかに描かれるエピソード、それ自体は、原作にも断片的に埋めこんではあったのだけど、補完のしかたが本当にずるい。父からの虐待で痣だらけにされながらお父さんのことが大好き、本当に、とアレッサに告げる痛ましさを、前世のフラッシュバックとして挿入してくるのとかもう。それがあることでヘザーが敵対者に抱く怒り以上の感情をもち、中盤でとあるボスキャラと対峙するところでも、ただ倒して踏破していく以上の、寂しい敵愾心を詰めこんでる。虐待されながら父を愛していた。アレッサのこともまた大事に思ってた。虐げられている人々を救いたいと願っていた。なにより、自分もまた苦しみのなかから救われたかった。そういうちょっとずつが積み重ねられ、胸に抱いてた善意が暴力と一緒に刻まれた教理によりどんどんねじ曲がって、孤独と執着が誇大妄想となってしまうのをわりと直球にやって、印象深くしてあるのは小説ならではのやりかただな。ノベライズ独自のエピソードに対応した専用の挿絵(アレッサとお祈りする幼く穏やかな横顔……)と最期のことばが用意されてるのも、ヒロインぽさ強めてた。個人的には、最期のことば――死に際にこぼれた「ごめんね、アレッサ」がことさら好き。この独自要素は作者からクローディアへの優しさであり、またひとつの、魂と物語の区切りだと思う。こうした描きかたも含め、復讐で怒りを拭うのでなく、怒りを乗り越えて「アレッサを縛りつづける呪いは終わりにする」のに注力してるなって読後感。プロットの片づけ方としては原作よりも好きで、十数年越しに感心した(レーベル終焉から数えてすら十年以上を隔てて感心するのもなんだけど)。
文章的にはときどき表現の使いかた間違え、語彙の手綱もゆるめがち、ジュブナイル小説的な軽さの部分もあるけど、そううい難点をたやすく遠ざけてくれる。思い返すほど善いところが多い。ヘザーが怪物や怪奇現象にたちむかっていけるように、という理由付けのそれらしさ。キャラクター設定や視点、そしてゲームシステムに隙なく意味づけする演出の補完。ゲーム内テキストの引用。武器準備シーンと、それの使いっぷり。個人的に純粋なノベライズに求める段階の践みかたを満たしてる本に当たるのってはじめてで、結構アガる部分が多かった。勢い任せに無印も通販で買ったんだけど、安くてコンディション表記もダメげだったのに帯付き美品が届いて嬉しいかぎり。そのうち読む。